2014年3月2日日曜日

ジョー・R・ランズデール/ボトムズ

アメリカの作家による長編小説。
2000年にアメリカで発表されアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞を受賞。2005年に邦訳の上日本で発売されました。
以前このブログで紹介した映画をテーマにしたホラーアンソロジー「シルヴァー・スクリーム」に収録されていた「ミッドナイト・ホラー・ショウ」(超恐い。)にいたく感動して是非著者の他の話を〜という訳でこの本を手に取った次第です。
作者ジョー・R・ランズデールはこの本以外でも様々賞を獲得しており、アニメ版バットマンの脚本も担当したことがあるとか。Wikiによるとなんとマーシャルアーツの実力者でもあるそうです。

老人ホームで寝たきりの生活を送るある老人は70年近く昔のことを思い出す。
1933年テキサス東部に暮らす「私」こと11歳の少年ハリーと妹のトムはある日怪我をした愛犬を安楽死させるべく入った森(地元ではボトムズといわれる深い森)の奥深くで、つり下げられ全身を切り刻まれた黒人女性の全裸の死体を発見する。森に棲むといわれるゴート・マンの仕業だろうか。治安官であるハリーの父親は捜査を開始するが人種差別の蔓延する世相なのか黒人が被害者の捜査は遅々として進まず、ハリーは半ば巻き込まれるような形で独自の捜査を開始するが…

形としてはミステリーとなると思いますが、主人公が少年でまた1930年代の田舎が舞台ということで科学捜査や組織捜査は当然望むべくありません。
隣人たちのうわさ話や凄惨な死体に残された少ない手がかりをもとに捜査が進んでいく訳なのですが、進んでいくというよりは現在進行中の出来事にある種流されているような感じ。とはいえそこで11歳の少年がそのちっぽけな体で何が出来るかという話でもあります。いわば少年の成長物語ともいえるのですが、ちょっと簡単にさわやかな成長物語といえないほど凄惨な要素を含んでいる作品になっています。(とはいえ物語自体は真っ暗な訳ではなくて、少年ならではの明るさや楽しさも同じ位豊かに書かれています。この古き良き時代の表現の巧みさは是非読んでいただきたいところ。)彼は誰と対峙するのか殺人鬼ゴート・マン?確かにそうかもしれません。でも実は彼はもっと大きいものと戦っているのでした。それは一体何か?私はそれはその時代そのものだったんだと思っています。
この本では中心に殺人があるのは間違いない。いっこうに進まない捜査の向こうに不気味な角ある怪人(もしくは悪魔)ゴート・マンの陰がちらつきます。しかし彼が捕まらないのは時勢の所為もあるのです。殺されたのが黒人ならば白人社会はとくに何も感じないのです。ただし白人が殺されたとなれば話は別でそのときは白人の群衆は証拠がなくたって怪しい黒人をリンチして殺してしまってそれが正しいと思っているのです。
そんな嫌らしい描写がこの本意はふんだんに盛り込まれていて、無教養だけど聡明な父親と母親に育てられたハリーはそんな大衆の愚かさと暴力性に果敢に立ち向かっていくのです。こんなこといったらアレですが、真犯人なんてある意味おまけみたいなもんなんです。
私は黒人差別とKKK団がこんなにも醜いものだなんて、この本を読むまで本当は知らなかったんだなと思いました。今思い返してあれは間違いだったというのは簡単ですが、もし自分がその時代に産まれて生きていたなら絶対に黒人を吊るせと叫んでいたんじゃないかと思います。そこがこの本の本当に恐ろしくて読者に訴えかけてくるところじゃないだろうか。(念のためお断りしておきますが説教臭い本ではございませんよ。)
主人公を治安官の父親ではなく子供にしたのも最終的に差別に対抗するのは暴力ではなくて意思の力なんだ、それは子供だろうが大人だろうがみんなが持っているんだ、という作者のメッセージなのだと思いました。

例えばフロスト警部シリーズもそうですが、巧みな筆致の面白い物語の中に犯罪の本当の恐ろしさや被害者の無念さを見事に封じ込めるようにかける人たちというのがいて、この本もそんな作者の手によって書かれた恐るべき一冊なのだと思っています。エンターテインメントとしては申し分ないのだが、その身に恐ろしい毒を秘めているようなそんな中毒性があります。罪と悪意と差別に対する深い反抗心があってそれが作者にこういった話を書かせるんじゃないかと思います。そしてそれが私を猛烈に感動させるのです。

あとはなんといっても主人公の父親が格好よかった。寡黙で冷静沈着ですが、焼きもち焼きで落ち込んで酒に溺れたりするあたりが人間臭くて非常に好感が持てました。癇癪持ちは彼の欠点として書かれていますが、本書の中で癇癪を文字通り爆発させた彼の姿に快さいを叫んだのは私だけではないはず。
ラストもすばらしく純粋に緊迫したサイコサスペンスとしても一級の出来ではないでしょうか。

というわけで非常に面白い本でございました。
文句なしにオススメでございます。

他の本も読みたいのにほとんど絶版状態じゃねーか、くわーーー。

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