2013年暮れにFLY N'SPIN RECORDSからリリースされた。
なのるなもないは日本は高田馬場のヒップホップ集団降神のMC。私が本格的に日本のヒップホップに触れたのは恐らく降神が最初ではないだろうか。彼らのセルフタイトルの1stアルバムはヒップホップの枠の中でかなり独特な内省的な世界を披露していた。そのバランスが門外漢の私には心地よく良く聴いた。続く2ndアルバム「望〜月を亡くした王様〜」では前作ではヒップホップというジャンルに無理矢理収めていたその個性でもって境界を浸食した様な、オリジナリティを突き詰めた様な作品で、その常人のヒップホップという認識を完全に裏切る様な(しかし同時にヒップホップでもあった)陰鬱な作風はネクラな私にはいたく刺さった。
その後降神の2人のMCはそれぞれソロアルバムを発表。なのるなもないの「melhentrips」(2005年)はそのタイトルの通り、メルヘンで暗くも暖かいその世界観に私はどっぷりハマってこちらも学生時代の一時期よく聴いておりました。
さてそれから8年(!)なのるなもないのソロアルバムの第2弾が発表され、私はそれを華麗にスルーし、あり得ないことだが3ヶ月後の今になって気づいてあわてて買ったという次第である。
お洒落なコラージュで構成された絵本の様な形に装丁されており(後ろには奥付がある。)、完全に彼の世界観であって、わくわくしてくるじゃないか。
さておよそヒップホップに限らない現代音楽では喜怒哀楽を始めとする感情を歌に込めて結果明るかったり、暗かったりする音楽性を確立することが多いのだが、そんないわば二項対立の方式からあえて距離を取ってなんともいえない立ち位置というかいわば別次元の世界観を確立するアーティストというのが少ないながらも存在する。その音楽性は感想にしても簡単に言葉に落とし込めることが難しいため、ともすれば難解と評されることもあるだろうが、そもそも感情なんてそのまま言葉に翻訳するのは無理に決まっていると考える私にとって、そんな変わった音楽に出会ってなるべくその音楽をそのまま聴いて何ともいえない感情がわき上がってくるのを体験するのが何ともいえない音楽を聴く上での楽しみの一つである。
なのるなもないもそんな”変わった”アーティストの一人で降神から始まってソロではその独特の世界観を突き詰めている。メルヘンとは言い得て妙で、人間に共通の感情をノスタルジックな物語性の文脈で語る(スポークンワードに近い形式を取ることもあって文字通り語ることもある。)ことで、普遍性を根底に持ちつつ夢を見る様な別の世界のお話に変換している様な趣がある。その世界というのは喜怒哀楽どれか一つ、暗い明るいどちらかでは表現できない、それらすべてが絶妙に混ざり合った音楽である。
形式としてはヒップホップということになるのだろうが、一見したところ大分趣が異なる。トラックはビートが太い音数の少ない、確かにヒップホップ由来のそれであるが、ドラムとベース音を組み合わせたビートの上にのるいわば第3の音が自由奔放である。暖かいシンセ音にとどまらず、ドローンめいたゆったりして曖昧な音像や、水のしずくが跳ねる様な音や鳥の声など自然由来っぽい音が見事に調和するようにコラージュされている。また曲によってはビートそのものが排除されている。
ラップは時に訥々と語る様なポエトリーリーディング・スポークンワードのように聴こえる。ビートが無いと本当に自然にしゃべっている様な、こちらに語りかけてくる様に聴こえるナチュラルさ。でもよく聴いてみるとなるほどそのリズム、曲によって跳ねるように繰り出される言葉のリズムがビートとハマっていて気持ちよい。うーん、確かにこれは大分遠くまで来てしまったようで実はきっちりとヒップホップだぞ、と気づく。(トラックの作りがしっかりしていることも大いに関係すると思う。)
曲によってなのるなもないのフロウ(使い方あってるかな…)に幅があって、ちゃんとすぐあ、これはヒップホップだとわかるものも沢山あるのでご安心を。
面白いなと思うのはフックの様なバースの様なわかりやすいサビの部分はあまり無くてページをめくるように次々と新しい展開が出てくる。それでいてこの聴きやすさはなんだろうか。マニアックなことは間違いないのだが、同時にその暖かくも少しかげりもあるその世界がすっと耳に入ってきて気持ちがよい。
リリックはもう完全に地上からふわりと遊離した様なメルヘンさがあるが、ある一節ではっと身につまされる様な鋭い現実性が潜んでいて沁みる。
「宙の詩」の全編なのるなもない一人の緊張感ったらないが、「melhentrips」でも共演したtaoらが参加する「STYX」のきらびやかさも楽しい。
この間紹介した同じ日本のヒップホップ集団SIMI LABとは全く異なる方向性だが、こちらもすごく良い。
私はヒップホップは詳しくないし、まして所謂本格的なヒップホップに関してはほとんど無知だが、それでも日本のヒップホップ(の少なくとも一部は)は本当面白いなあと思う。
というわけで本当すばらしい。滅茶苦茶オススメなので、是非視聴だけでもしていただきたいと思います!
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