「厭な物語」なんとも嫌らしいタイトルだが、本書は古今東西の後味の悪い厭な物語を11編も集めて一つの本にした日本独自のアンソロジーである。
最近ランズデールにハマっていて彼の本の絶版ぶりに憤りを覚えつつなんとか短編を読めるアンスロジーを探している中で出会った本。残念ながら本書に収録されている彼の作品は「ナイト・オブ・ホラー・ショウ」というタイトルで以前紹介したシルヴァー・スクリームに収録されている「ミッドナイト・ホラー・ショウ」とは訳が違うが同じ短編で、そういった意味では残念なのだが他にも面白そうな短編が収録されてそうなので買った次第。
一体後味の悪い作品というのは人を深いにして遠ざける反面、同時に何ともいえない魅力で人を引けつける。本書の解説でも書かれているが、私もこの道の大傑作ジャック・ケッチャムの「隣の家の少女」を読んで以来後味の悪い作品というものに何となく引きつけられている。後味が悪ければそれで良いという訳ではないが、あのすばらしいできばえを持った作品が何とも嫌な結末を迎えたときの、すりつぶされる様な読後感がなんとも癖になるものだ。
そんな需要にぶち込んできたのがこのアンソロジーで国境と時代を超えてただただ後味の悪い作品を集めたというまさに嫌らしい本である。
「夜鳥」のモーリス・ルヴェル、ミステリーの女王アガサ・クリスティー、「変身」のフランツ・カフカからマシスンの実子リチャード(父親と同じ名前)、前述のランズデールなど古典からモダンホラーまでと結構作品の幅は広いのではなかろうか。
いくつか気に入った作品を紹介。
パトリシア・ハイスミス「すっぽん」は母子家庭で起こるある悲劇について書いた作品だが、当然のように後味の悪い結末よりそれに至る過程がなんともいたたまれない。母親と子供の関係性で、お互い噛み合ない会話がこんなにもうら寂しいものだとは。
シャーリィ・ジャクソン「くじ」は村で伝統的に行われているくじに関する物語。前にも別のアンソロジーで読んだがやっぱり良い。発表当初批判されたのもわかる。こんなことは現代では起こらないはずなのに、なにか罪をとがめられている様な気がする。
フラナリー・オコナー「善人はそういない」は旅行に出かけたある家族に起こる悲劇を書いた作品で、このアンソロジーではこの短編が一番好きかも。祖母のキャラクターが良い。彼女は確かにトラブルメイカーだがこの結末を迎えたのは一体誰の所為かのか?と考えさせるようなその構成が意地悪かつ巧妙だと思う。完全に悪いことが起こるのはわかっているのに止める術無く終末に向かっていくラストの凄まじさといったらない。哲学者めいた半端者のキャラクターも良い。
その筋の有名な作品が入っているのでこういった話に興味はあるけどまだ良く読んでない人にはとても余韻じゃないかと。私の場合は知っている作品も知らない作品もあって楽しめたっす。全体的に枚数も少ないのでさらって読めるし。
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