以前紹介した妖神グルメに続く、創土社のThe Cthulhu Mythos Files第3弾。
題名の帝国は第三帝国、つまりナチスのことです。ナチスの一部幹部がオカルトに傾倒していたというのは有名な話らしいですが、そこの部分にクトゥルーをがっちり融合させ、妖しさ2倍!という短編集。
著者は朝松健さん。「パンの大神」で有名な英国の怪奇作家アーサー・マッケンさんをもじったペンネームの怪奇作家です。(そういえば荒俣宏さんもダンセイニ卿をもじった団精二というペンネームつかってましたよね。)以前読んだ朝松さんの本のあとがきに書いてあったと思うのですが、朝松さんはご病気を患って奇跡的な回復をされた後、これからは自分の好きな怪奇小説しか書かないぞ!とご宣言されたそうで、怪奇小説好きの端くれとしてはうれしい限りです。朝松さんの小説は「崑央(クン・ヤン)の女王」、「肝盗村鬼譚」を読みましたが、いずれもクトゥルー小説の真髄を日本を舞台に見事に描いた作品で楽しく読んだものです。(絶版だったから中古で買いました、本当は新品で買いたかった。)
今回の邪神帝国は以前に早川文庫からでていたものを加筆した再販版です。これはうれしい!とにかくクトゥルー系の本は絶版になっているのが多くて、後追いの私としてはつらい限り。くどいけど個人的には本は新品で買いたいと思っています。(中古ってちょっと苦手だし、新品なら作家の方に印税が入りるので。)
表紙と中のイラストは槻城 ゆう子さんという方が書かれていて、これがスタイリッシュでかっこいいです。
内容については前述のとおりナチスとクトゥルーを融合した短編集で、ナチスの行った数々の残虐な行為に背後に旧支配者たちの影が見えるというもの。冒頭「”伍長”の肖像」は現代ですが、残りはすべてナチスの時代(とちょっと前のも)が舞台です。クトゥルーに限らずいろいろなオカルト要素が盛り込まれていてとにかく濃厚。
狂気山脈を舞台にした話もあって、迫りくるショゴスに胸が熱くなるんですけど、読んでいてすげえなと思ったのは、クトゥルーと別の要素の組み合わせ方。全編ナチスはもちろんなのですが、それに加えて各短編もう一つくらい追加のファクターがあって、それが切り裂きジャック、古典的な吸血鬼とホラーファンなら泣いて喜ぶような素材が、まったく違和感なく物語に溶け込み、それを芳醇なものにしております。また最後の「怒りの日」はちょっと趣が変わって、ヒトラー暗殺のワルキューレ作戦をもとにしており、これが非常に手に汗握ります。クトゥルー要素も出し方が非常に巧みで、ばばーん出ましたークトゥルー、これでお前ら喜ぶんだろ、というクトゥルーというものの全く怖くないお話とは大違いです。個人的にはクトゥルー小説というのは、単に邪神が出てくるからそれではなくて、もっと根源的なある種の恐怖(これをきちんと言葉にできたらなあ!と思います。)を描いた作品であるべきと思っているので、朝松健さんの物語は邪神が(時には)派手に登場しつつも、僕のすきなクトゥルーの持つ根源的な恐怖を損なうことなく書いていてとても面白いです。
とにかく日本という枠とか関係なしに素晴らしいクトゥルー小説です。もちろんホラー小説としても超一級なので、もう全人類におすすめ!
ここで朝松健さんのインタビューが見れます!!
http://www.youtube.com/watch?v=8PbcQd6dd3U
絶版になっている「秘神界」超読みたい。もはや中古で買うしかないかな…
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