広告業界で20年働いた経験を持つジャック・カーリイさんの作家デビュー小説。
2004年発表で2006年このミステリーがすごいの海外編で6位につけてる。
アラバマ州はモビール、メキシコ湾に臨む風光明媚な街で異常な死体が発見される。
首が切り落とされ行方不明、体には意味不明の文字列が丁寧に書き込まれている。
警察の精神病理・社会病理捜査班に所属するカーソン・ライダーは、相棒のハリー・ノーチラスと2人で事件の捜査にあたるが、出世欲が強く口だけで世渡りする上司に疎まれている2人は、足を引っ張られ、思うように進まない。
そうこうしているうちに2人目の被害者がで、一向に捜査に進展のない状態で、カーソンはある決意をする。過去に大量殺人を犯し、今は精神病院に収監されている実の兄。彼に犯人のプロファイルをお願いすることを。兄の殺人はまた、カーソンの過去に深く結びついており、彼はいやおうなくそれに向き合うことになる、
サイコサスペンスです。
異常な殺人事件の捜査に異常者を引っ張り込むというのは、羊たちの沈黙でもありましたが、この本だと実の兄なので、カーソンは怪物に向き合う時に同時にもう一つの不安材料を抱え込むことになります。冷静に立ち向かえないのですね、血がつながっていて、また過去の事情もあるから。
また、登場人物が魅力的で一癖もふた癖もある曲者揃いなのですが、主人公カーソンをはじめとして過去や現状に様々な問題を抱えて、この首なし死体事件を通してそれらが少しずつ暴かれていきます。
こうやって書くとなかなか陰惨な感じですが、この本のすごいところは扱っている題材は暗いのですが、全体的にとても明るく仕上がっているところです。
一番は会話で、特にカーソンと相棒ハリーの掛け合いが面白い。アメリカの映画をそのまま文字にしたみたいな会話でアメリカンジョークを交えつつ軽妙に進みます。カーソンがぼやいて、ハリーが突っ込みを入れつつおさめてやる、といったパターンがあって物語が暗くなりすぎないよう一役買っています。
また、いろいろ事情を抱えた人物が基本的にはみんな前向きです。つらい状況を克服しようとしても、うまくいかなかったり、今まで知らなかった新しい問題に直面して呆然とすることはあっても、そいったもろもろの事情にみんなが敢然と立ち向かっていきます。ここの部分がとても真摯に書かれているので応援したくなるような感じ。ここのところ多分作者の人が意識して丁寧に描写しているんだろうな思いました。
帯でミステリとして優れているというような書き方がされていて、実際によくできていると思うのですが、それ以外のお話の部分が粗削りながら結構丁寧に作られている印象です。
いい意味で軽く読めるお話ですね。
おすすめ。
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