ドン・ウィンズロウによるサーフノワール第2弾。
相変わらずの、軽口、友情、ノワール、どんでん返しがギュッと一冊に収められており、破綻なく最後ですべてを丸く収める力量はさすがの一言。
カリフォルニア州サンディエゴ市パシフィックビーチ在住のブーン・ダニエルズはサーファーであると同時に探偵。波乗りに支障が出ない範囲で仕事するのがモットーで、頼もしい仲間「ドーン・パトロール」とのサーフィンが彼の人生のすべて。
ある日、ブーンは紳士の時間(仕事を引退した熟練サーファーや成功した人物など時間に余裕がある人たちが波に乗る朝早い時間)のサーファー仲間から彼の妻の浮気の調査を依頼される。この類の調査が決して良い結果をもたらさらないことを知るブーン、さらに仲間の夫婦間の問題となればなおさらと引き受けることをためらうが、結局は仲間のよしみで引き受けることに。
その足で事務所に向かうと、ある事件をきっかけに知り合った友達以上恋人未満の美人弁護士から仕事の依頼が。
高名なサーファー、通称K2が若者に殴り殺された。彼女はこの若者の弁護をするので、地元に顔の利くブーンに手伝ってほしいという。K2は地元で成人のように敬愛されている。ブーン自身も尊敬し、その死に悲しみ、犯人の若者を憎んでいる。パシフィックビーチのものならばみんなそう考えているだろう。取りつく島もなく拒絶するブーンだが結局依頼を引き受けることに。ただしそれはブーンが考えている以上に過酷な未来を彼にもたらすことになる。
前作に引き続き、だらしなく見えるが実はイケメンで、無知で粗野に見えるが実は博学、明るくふるまっているが暗い過去があり、サーフィンがべらぼうにうまく、腕っぷしが強い、仲間に恵まれていて地元では顔役、という男の理想像をこれでもかと体現したブーンさんが活躍しまくる。(今回は前作以上にちょいちょい女性にもてる描写が多かった気がする。)
ただし今回は前作のようにスマートのようにいかない、なんせ周りはK2大好きなのだから、それを殺した男の弁護をするとなれば、地元に波乱が起きないことはありえない。結束の固い「ドーンパトロール」にも亀裂が走り、調査はうまくいかない。ブーンは次第に追い込まれていく。サーファーやめちゃおうかな、などとも考えちゃう。
思うに 「ドーンパトロール」の中でブーンだけが中途半端なのだ。ほかのメンバーはみんなちゃんとした仕事を持っている。サニーはそうでなかったが、長年の夢がかなってプロのサーファー(お金をもらってサーフィンする人)になった。ブーンもプロになれる力量を持っているのだが、自分には向かないのでいつまでたってもダラダラしてて、この生活がずっと続けばいいと思っている。ただブーンもいい大人になってきて、いよいよお前このままだとどうするんだ、と今回はのっぴきならない状況に追い込まれるわけだ。
追い込まれているのに軽口をやめないブーン、前述のとおりヒーローを体現したかのようなその人格はともすれば嫌味になって読み手に嫌悪感をもたらすこともあるだろうが、 ドン・ウィンズロウの語り口は今作でも冴えわたり、もはや俺だけがお前を分かっているぞとばかりに応援したくなる。
孤立無援のブーンはそれでも真実に近づいていく。陽光燦々たる楽園のようなサンディエゴ、前作ではそこが内包する闇が暴かれたが、今作でももっとねっとりとした闇の部分がさらされていく。
そのラストは是非読んで確かめてみてください。
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