2017年9月16日土曜日

DEATH SIDE/WASTED DREAM

日本のハードコアバンドの1stアルバム。
元々は1989年にSelfish Recordsから発売された。私が買ったのは2017年にBreak the Recordsから三度目に再発されたもので、紙ジャケ仕様でリマスターが施されている。
DEATH SIDEは1983年、もしくは1984年頃に結成されたハードコアパンクバンドで1995年には解散している。近年何回か再結成の上、ライブをやっているようだ。
私も最近知ったのだが日本のハードコアというのはかなり独特で非常に先鋭的。日本でなく海外のバンドに多大な影響を与えたそうだ。時にバーニング・スピリットというサブジャンルで語られることもあるその手の音だが、「Burning Spirit」というのはこのDEATH SIDEというバンドの曲名である(この曲はこのアルバムでなくこのあとの2ndアルバムに収録されている)。また再結成して海外に遠征すればアメリカのニューヨークのライブハウス(700人入るという規模)が2日間瞬く間に完売するという人気がある。そんなバンドなので三回も再発されているのもうなずけるが、私は聞いたことがなかったのでこれを気に購入した次第。ボーカルのIshiyaさんが今やっているForwardのライブを何回か見て感銘を受けたというのもある。

全18曲を39分で駆け抜ける、1曲大体2分のハードコア。一般のポップスからしたら短いが、最先端のハードコアからすると馬鹿みたいに短くはないことがわかってもらえるだろう。ただその中には爆発するかのような突進力があり、それを120秒維持できる(ただ突っ走って120秒は長い)曲の構成力がある。
リマスターのせいもあるだろうが、楽器の音はどれもクリアでクラストのそれのように意図的に(あるいは環境的に)わざとたわませたような劣悪な音質で録音されていない。ベースとギターはどれもメタリックな硬質なカバーでその音を武装している。いわゆるメタリックなハードコアを演奏している。ギターは特に重量感のある太い音で曲に迫力を持たせている。基本的にミュートを多用せず(効果的に用いている場面は多々ある)、常に突っ走るように弾き、初期衝動に満ちたハードコアを自由奔放に描き出していく。だがそれならもっと曲が短くてよいはず。このギターと曲には実は結構秘密があると思う。
一つはリフが魅力てかつ多彩。ただただジャージャー、ジャージャー、ジャージャーとただ同じようなストロークでコードだけ変えて引くのではなく、きちんと抑揚がついたリフをかなりの速さで弾いている。(例えば「Laugh Til You DIe」なんかは速くて短い拍の中に乙一の多いリフがギュッとコンパクトに入って繰り返されているのがよくわかる。)速い、ミュートを使わないという厳しいルールの中で多彩なハードコアリフが詰め込まれている。後ろの演奏がこっているから基本吐き捨て型のボーカルだけど曲が非常に豊か。
もう一つ、曲がよく練られていてわかりやすい展開があること。それはリフの種類もそうだし、イントロ、Aメロ、サビのように明確に展開がわかれている日本の歌謡の影響もあるのかもしれない。(別にわかりやすいサビがあるわけではないが。)それからちゃんと聞くとハードコアのかっこよさのキモである速度(テンポ)のチェンジをうまく取り入れている。遅めのイントロから加速するのはわかりやすいし、ある程度の速度を維持しながらこっそり(ってわけでもないと思うけど)変えたりよくよく曲が練られているな〜と思うのはここらへんが由縁である。
短いけどたまに入るギターソロは昨今のハードコアのそれとは趣が異なり、かなり感情に満ちて叙情的である。コードの妙なのかわからないが曲もほどよくメロディアスである。ボーカルは叫びっぱなしなので、やはり曲が感情的なのだ。歌詞を見るとやはり怒りに満ちているのだが、その怒りを表現するにしてもいろいろな手法、アプローチでただ聞き手に叩きつける以上の成果物を提供していると思う。
とにかくアイディアと気配りがこれだけ込められているのに、結果曲からハードコアの初期衝動に満ちた攻撃性が全く削がれていないのが、この音源の一番すごいところ。凝ったリフ、メロディアスな叙情性すべて入っているが、完成したのは全くタフなハードコアだ。つまり技術的な説明をしてもこの音源に関してはその魅力を半分も伝えられないかもしれない。怒りに満ちて叫ぶのがハードコアならこのアルバムは最高のハードコアアルバムである。

前述の通り曲の良さに加えて、リマスターの質が非常に良いせいもあるのだろう、とにかく全く古びて聞こえないのでハードコア興味があるという人は(好きな人はもうすでに聞いているような気がするので)この機会に是非どうぞ。ハードコアってこんなに表現力豊かなのか!とびっくりすると思う。おすすめ。

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