アメリカの作家の長編小説。
山尾悠子さんの本が読みたいけど高いな〜と思っていたところ、彼女が訳している本があるという。それがジェフリー・フォードの「白い果実」という本でこちらもやはりというか国書刊行会から出版されておるわけで、それならまず作者の違う本を読んでみるかと思って手に取ったのがこの本。絶版なので中古品を購入した。
1932年のアメリカは大恐慌真っ最中。市民は貧困に喘いでいるが、金はあるところにはあるものだ。17歳の少年ディエゴはメキシコからの不法移民で今はインド人になりすまし、インチキ霊媒師トマス・シェルを父親代わりに詐欺を働いて生計を立てている。ある日訪れた金持ちの屋敷でシェルが本物の幽霊の少女を目撃、彼女はその少し前に失踪していた。ディエゴたちは彼女たちの失踪事件を調べ始める。
どうもジェフリー・フォードというのは山尾悠子さんが翻訳するくらいなので、普段は幻想文学のジャンルで活躍している人のようだが、この小説は霊媒師という”不思議”を扱いつつも結構真面目なミステリーになっている。この小説でアメリカ探偵作家クラブ賞を受賞したというのだからなかなかどうして器用な人である。禁酒法が幅を利かせており、人種差別が色濃く残る過去のアメリカのミステリーというとまっさきにジョー・ランズデールの名作「ボトムズ」が頭に浮かぶし、実際その雰囲気もいくらか共通していると思うのだが、こちらの方は「ボトムズ」ほど暴力的ではないし、むせかえるような南部のねっとりとした闇は書かれていない。フォードの幻想文学という出自もあってかもっと上品に(しかし差別や歴史の暗部に鋭くメスを入れる批判精神は負けていない)書かれているのが本作だろうか。ロマンスあり、弱い立場にいるものたちが団結して巨悪に立ち向かうという構図の胸のすく冒険的な展開もあり、さらには主人公が大人になりきれない17歳というのもあってヤングアダルト小説と言ってもいいくらいの雰囲気がある。
主人公が過去を回顧するという形式もあってか昔のアメリカのセピア写真を見ているようなノスタルジーがあってそこが魅力。インチキ霊媒師やフリークスなど、現代ではおそらく善意によって生きられない存在がたくましく生きている姿が端正な文体で描写されている。ディエゴのターバンを巻いたオンドゥーの格好もそうだが、ややゴシックな香りがするのだが、もちろんそれも虚構であって中身はもっとしたたか。蝶を愛するシェルというキャラクターの性で腕っ節で生き抜くアンダーグラウンドというより、華麗に人を煙にまく幻想味といった空気感になっている。
がっちりした男たちによるミステリーと言うよりは、どこか奇妙の色合いのする謎めいたミステリーと言う感じなので、そんな感じの世界観が好きな人は是非どうぞ。
私も楽しく読めたのでいよいよフォードの書く幻想文学の本も読んでみたいと思っている。
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