2017年9月10日日曜日

ブライアン・オールディス/スーパートイズ

イギリスの作家の短編集。
ブライアン・オールディスといえば「地球の長い午後」が有名だろうか。いわゆるニュー・ウェーブの先鋒に数えられる人で、J・G・バラードとともにこのムーブメントの勃興と発展に大いに寄与したとか。(そういえばバラードの本は日本でも数多く出版されていてまだ読めるのに、オールディスはそうでないのはなぜなんだろう。)「地球の長い午後」は最近装いも新たに再発されたはずで私も買って読んだ。たしか弐瓶勉さんもすごい好きだ、みたいに書いているのをどこかで見た。その後何気なくかった「寄港地のない船」が素晴らしかったのだが、日本ではこの二冊くらいしか売っていないため、その他の本は読めていなかった。最近は古本を買い出し始めたので(ちょっと前まで結構抵抗あった、今でも新品のほうが好きだ。)、そういえばという感じでオールディスの短編集を買ってみた。全然知らなかったのだが、タイトルにもなっている「スーパートイズ」という非常に短い短編はスティーブン・スピルバーグの手によって「A.I.」として映画化されている。もともとはオールディスが鬼才スタンリー・キューブリックと長いことタッグを組んで映画化をもくろんでいたが、断念。ポシャった企画をスピルバーグがキューブリックの死後買い取り、「A.I.」として映画化したそうな。そんなキューブリックとの経緯を書いたオールディスのエッセイもこの本に収録されている。恥ずかしながら私は「A.I.」見ていないんだが。

SFでいうところの「ニュー・ウェーブ」というのは私はバラードの作品を通してしかほぼ触れていないので大層なことは言えないが、少なくともバラードは宇宙の神秘を外部でなくて人間の内部に求めて、それまでのSFとは趣の異なる作品を多く書いている。異常な状況に揺れる人間心理を丁寧かつ登場人物に近づきすぎないように冷静に書いているのが印象的で、非常にSF的異常な世界を書いた「結晶世界」や「沈んだ世界」に限らず、その作品的な求心力はたとえば「楽園への疾走」や「クラッシュ」など私達の日常生活、現代の状況にもその精神を適用して様々な作品を書いている。ハードコアなSF原理主義者というわけでもない私は大変面白くバラードを読み、あまりニュー・ウェーブ感を意識もしてなかったが、このオールディスの短編集を読んでなるほどニュー・ウェーブか〜と少し思った次第だ。というのもオールディスの上記2つに上げた長編というのはこれもやはり異常な世界を書いていて、その他の描写もかなりはっきり緻密になっている、いわば真面目なSFというイメージだったのだが、短編になるとその想像力とそれを形にする筆致というのはもっと自由奔放に制限のないシュールな世界を描き出すようだ。一連の「スーパートイズ」三部作はそれでも分かり易いが、ただし思っていたよりずっと短いし、意識的にほぼ登場人物たちの行動をシンプルに書いているだけである。オールディスはどうやらその言いたいところをあえて書かずに読み手に感じさせるタイプの作家のようだ。この短編集に収められている短編はどれも短く、そして世界観の異様さは様々だが(見たこともない異世界を描いているのもあれば、一見現代を舞台にしたような作品もある)たいてい説明が不足しており、ぼんやりとした認識のままきりの間から現れた断崖絶壁のように唐突のように幕を閉じていく。難怪というよりはややシュールでとにかく作者の意図が読み取りにくい。作者の意図というのは概ね読者にとっては意味のないものではあるが、それでもなにかしらの例えば批判的な精神が感じ取れる場合はそれは結構重要にもなってくる。オールディスはどうもその批判的な精神で持ってかなり痛烈かつシニカルに現代文明を風刺をしているらしいのだが、フィクションのオブラートで何重にもそれを包んでいるため、結構わかりにくくなっちゃうのだ。ただ終わりまで読むとここの作品というよりは全体的なオールディス感をつかめるのでそういった意味では大変有益な意味がある。
概ねオールディスは人間はおろかで、広大かつ深遠な自然というものが地球という楽園では人類に取って大いに有益に働いているのに(聖職者が主人公の作品もあるし異形の神が出てくる話もある。要するに神がこの楽園(もしくは別の宇宙)を意図的に作り出したという理由付け)それを全く解せず、自分たちのわがままで持って自分たちだけでなく自然とその美を破壊している。破壊している私達も連帯すれば幸福になれるチャンスが有るのに、ここの隔絶と猜疑心、エゴイズムが私達を不幸にして破滅させていると(はっきりとここが地獄だと言っている短編がある)、そういうふうに思っているようだ。非常にシニカルであって救いがない。そんな中で「遠地点、ふたたび」は無知がほろび、また新しいサイクルが始まるという無常観かつ深遠な輪廻の車輪の存在を感じさせる一品だし、ラストを飾る「完全な蝶になる」は無知に対する歯止めがやっときくその軌跡の瞬間を色鮮やかに書いてなんともいえない感動がある。まだオールディスも希望を捨ててないのではと思わせる。

スピルバーグの作った「A.I.」が原作をどう解釈しているのか気になるので、今度機会があれば見てみようと思う。なんかすごい感動系みたいなプロモートだったのであまり興味がわかなかったが、実際はそうでないなら良いな。
オールディスはまず新品で手に入る長編の二作を読んでみて、感動に震えたぜ!という方々はこの本を手にとって見ることをおすすめ。

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