アメリカの作家による短編小説。
ジョー・R・ランズデールといえば結構好きな作家だが、いかんせん現状では多くの本がわが国では絶版状態である。代表作は手に入りやすいという意味でも長編「ボトムズ」であろうか。アメリカ南部の闇を、手に取れそうなくらい濃厚に書いている重厚なミステリーだ。と言っても重苦しい作品を書く作家では決してなく、冴えない白人と肉体に恵まれたゲイの黒人が活躍するハップとレナードシリーズに代表されるようにどんな物語でも作家本人特有の(特にどぎつい)ユーモアセンスあふれるジョークを事欠くことがない。
そんな彼の日本オリジナルの短編集がこちら。比較的最近(2009年)発売されたもののすでに絶版状態。古本が苦手な私は読まずにいたが、最近はそんな気持ちより読みたい気持ちが勝りつつあるのでこの本も中古で購入した次第。
タイトルにもなっている「ババ・ホ・テップ」とは作中では「ゴミ捨て場の王」と訳されているがおそらく作者の造語ではないだろうか。「ババ」というのはスラングで「ホ・テップ」というのはエジプトの王に対する呼び名だと思う(が違っていたら申し訳ない)。ちなみにこちらの作品は「プレスリーVSミイラ男」という(邦)題で映画化されている。この映画タイトルが全てを表していると言っても過言ではない短篇である。
この短編集でもランズデール流のユーモアセンスに横溢している。時にそれはどぎつく、バカっぽい若者たちが女を買いに行ってヘマをする話などはひとまず落ちたところまではおバカな青春ものとして味わいがあるのに、そこから地獄のピタゴラスイッチのような展開である。笑えるものの結構ひどい。平凡で気の弱い男がひどい災難にあう「草刈機を持つ男」なんかは結構酷くて私は主人公の情けない男に同情してしまい途中から笑えなくなってしまった。あとがきではモダンホラーの帝王キングに比類する作家として書かれているけど、個人的にはちょっとタイプが違う。こちらの方がきつい。なるほど時には万人に受け入れられないということがあるのではと思う。つまり読後の感じがよろしくない場合がある。それはどぎついユーモアもそうなのだが、実は微妙にそれだけではこの作家の特性というか持ち味が十分に説明しきれないと思う。「ボトムズ」、それからハップとレナードの物語でもそうだったが、ランズデールはとにかく差別に対する筆致が容赦ない。ひたすら醜く書く。誇張というかデフォルメもあると思うが、その背後に潜むのは、私が思うに差別に対する作者の嫌悪である。平然と行われる”肌の色の違い”に対する罵詈雑言、そして暴力、それらを動かす思い上がった精神性。ランズデールの筆はそれらを逃さない。陰惨な暴力の爪痕の描写を見て、私のような愚かな人間は差別は良くないということにやっと気がつくのではないか。この本の中では異質の最後に据えられた母に対する愛情に満ちたエッセイ。この中で描かれる、ランズデールが尊敬し敬愛する母親は反差別的な人間である。
なるほど時に不愉快と言っていいほどの読書体験だが、ランズデールの彼物語はそれゆえ強烈な力を持っている。ランズデール自身は道場を開くほどの格闘技のスペシャリストである。力というものがなんなのかおそらくよーく知っているのであろうと思う。彼の各物語は強烈なパンチだが、それは私たちを傷つけようとするものではない。痛打であるが頭に効く。それがランズデールの作風だと改めて思った。
ねっとりとしたアメリカの暗部を垣間見たい人は是非どうぞ。
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