アメリカの作家による警察小説。
アメリカ文学界の狂犬ことジェイムズ・エルロイによる刑事ロイド・ホプキンズシリーズ第三弾にして最終作。だいぶ前に読んだ一冊め「血まみれの月」、そしてこの間読んだ2冊目「ホプキンズの夜」ときたらやはり最後まで行かないといけない。すでに絶版状態の本のため古本で購入。1990年の初版本で前の2冊は重版後だったので表紙のデザインが異なる。上の画像は新しい方で私が持っている本とは異なる。(古い方の画像がなかった)
車泥棒のライスは密告を受けて刑務所に収監されていた。模範囚となり、出所を目前にした彼は偶然強盗の手口を耳にする。それは不倫をしている銀行の支店長の愛人を人質にとり、金を奪うというものだった。ライスは売春婦の彼女をロックスターにする夢がある。そのためには金が必要だ。まともになる気なんて毛頭ない。彼は出所後その計画を実行することにした。LAPDの部長刑事ロイド・ホプキンズはハヴィランドの事件の後始末でヘマをやらかし停職中だったが、ライスの起こした強盗事件の捜査のためFBIとの共同戦線に引っ張り出される。上層部は彼を警察から追い出すことにし、それまでの間に事件をあてがわれたのだった。窮地に陥ったホプキンズはこれが自分の最後の事件と腹をくくり捜査に乗り出す。
ざっとしたあらすじだけでも前の2冊とは明らかに一線を画すことがわかる。今度の事件にはサイコパス、もしくは殺人に執着する精神異常者は出てこない。ライスは彼女をロックスターに仕立てたいのだ。そのために金が必要で、手っ取り早く強盗稼業で稼ごうとする、一応一般人にも理解できるロジックで動く男。ただしやはり情緒面に問題を抱えて降り、怒りがある地点を超えると理性を失ってしまう。(視界に赤い色が滲んでくる、という描写で表現される。)彼と相対する主人公ホプキンズもトラウマから(もしかしたら生まれ持っての)同じく精神構造に問題を持ち、それが行動となって現れることで生きにくさを抱えている。両者ともにロマンティックな面が強調されていて、ホプキンズは別居中の妻と子供(末っ子だけは彼の味方)と気持ちが通じ合わない。ライスも自分の思いは強いのに、彼女には全然届いていない。ロマンティックというよりは自分の生きがいを恋人に求めているような一方通行感が目立つ。それだけ彼らの孤独な魂が浮き彫りになる寸法で、ロマンチシズムを感じさせるのは何も恋愛感情だけでなく、そう言ったある種の男の美学的な表現にも当てはまる。あとがきにも書いてあるようにエルロイの描く男たちというのはみんな屈強な体に凶暴な意思を持ち、その手には銃が握られている。時には簡単に一線を越える”強い”存在であると同時に心の奥には強い恐怖を感じている。それは孤独や、生きがいの喪失(今回ホプキンズは生きがいである警察官という職を失うことを極度に恐れている)、またはホモフォビアだったりする。硬い殻とナイーブな魂を持った彼らはトラウマという単語に収まらないほど病的で危険な存在である。異常な執着心すらも飾りのように死に向かって飛び込んでいくような姿は狂気を通り越して、非常に虚無的に見える。熱い情熱があるのに、その中身は空っぽなのだ。魂に欠落があるから外見を武装しているようにも見える。その間違った情熱こそがエルロイの魅力なんだと思う。文体が流麗なわけでもないし、むしろたまにわかりにくい。余計な物がついている。情報量が多い。(登場人物の行動に)無駄が多い。しかしそれらが良い。その混沌とした行き当たりばったりな矛盾。執着とどうでも良いという諦めが同時に存在して、ぶつかり合って火花を立てている。冷たい炎に焼かれるように破滅していく。そんな姿はやはりロマンティックで、私としては羨望の眼差しで彼らを見てしまう。
彼らの魂に祝福を、と思わせるラストも驚いたが良かった。面白かった。
すっと読める本じゃない、濃い本が読みたいならエルロイの描く物語は最適だと思う。近作よりはどうかしている度合いは低くてわかりやすいので初めて読む人もいいと思う。まずは「血まみれの月」を読むのがもちろん良い。冒頭で大体合うか合わないかわかると思う。
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