2015年10月24日土曜日

マイクル・コーニイ/ハローサマー、グッドバイ

イギリス生まれカナダ国籍の作家によるSF小説。
評判が良いのとAmazonにお勧めされるので気になっていたものの恋愛小説らしいということで敬遠していたのだが、何となく買ってみた。
作者のマイクル・コーニイはホテルやパブを経営したり、森林局に勤めたりと面白い経歴を持った作家で、いわゆるアウトドア大好きな人だったらしくそこが小説の細部をとても瑞々しいものにしている。

地球とは異なる惑星。冬はとてつもなく厳しい寒さに襲われる。星には二つの大国が存在しているが今は戦争している。政府高官を父に持つドローヴは夏の休暇を過ごすために温暖な港町に家族で出かける。そこで前年心を通わせた思い出の少女ブラウンアイズと再会。心躍らせるドローヴの前には明るい未来が広がっているかのように見えたが、戦争が次第にその影を落としていく。

恋愛小説であると同時に青春小説でもある。なんせ異世界が舞台であるから主人公たちも人間ではない(人間の形して心の動きも似ているよと作者からの注釈が物語の一番最初にある)のではっきり言えないがまあ中学生くらい?かなという年頃だと思う。
Amazonなんかでも評判が高いし、新訳もされたということで人気の作品なのだろうが、なかなか最初の方は読み進めるのが大変だった。というのも主人公ドローヴにちっとも感情移入が出来ないもんで。こいつは反抗期なのか政府高官の父とそれに追従する母親にとにかく敵対心を持っている。勿論この性格は思春期の少年というキャラクターを形成するにあたって意識的に作者が付与したものだと言う事は分かるのだが、かといって中々こいつのかたりについていくのは私には難しかった。年端が行かない特権階級のボンボンのガキでそれが恋愛するってもんだから、自分が嫉妬しているのか?と思ったのだがそうでもない。反抗的な態度、鋭い洞察力なんかは別にどうでも良くてようするにどうも自信満々なその態度が気に入らなかったようだ。むむむ〜と思っているとしかし戦争が不穏な影を少年の輝かしい人生に影を投げかけてくる訳で、こうするとこの少年もようやっと成長しなければならない訳で、そこらへんからは(生れたってのもありそうだが)楽しく読む事が出来た。とはいえどちらかというと父親の方のか保ってしまいがちな私。だって(恐らく早田と思うのだが)世襲制でもないのに政府高官にまで上り詰め、なるほど高圧的で支配的ではあるものの、家族を愛している故の主人公への接し方である(それがあまりよろしくない形で発言しているのはわかる)ことは結構分かりやすいもんで、そこら辺は少年の方も歩み寄れば良いのになと思ってしまう。
少年と戦争という物語の大筋があって、最後まで主人公が子供扱いされるのは戦争の不条理さを書き表していてとても良い。常に傍観者である、というところか。知恵はたつし、行動力もある、結構上手くできるのに戦争という大局に影響を与えることはかなわないという無力感が、恋愛にも影響を与えまさに苦い感じである。また恋愛小説、青春小説であると同時に一流のSF小説である、というところは主人公云々をぬきにしても流石と唸らざるを得ない。面白い。そして良く出来ている。
同じ少年が主人公のSFというとパオロ・バチガルピのヤングアダルト小説「シップブレイカー」の主人公は素直に応援したくなったものなのだが。彼が苦労人のせいだろうか。なんとなく批判的になってしまったが、物語がシリアスになる中盤以降とそこに絡んでくるSF要素で持って結構楽しめたのでした。続編も出版されているので読んでみようかな。調べたら表紙がスゲーんだが
青春小説〜?と思っているSFファンは読んでみると良いと思います。

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