アメリカはマサチューセッツ州ボストンの作家によるハードボイルド小説。
タイトルの「ザ・ドロップ」というのは汚い金の中継地という意味。
寡黙な男ボブはいとこのマーヴのバーでバーテンダーとして働いている。体躯は良いものの人と関わるのが苦手なボブは多くの人には優しいけど鈍くてぱっとしない男だと思われている。ボブ本人も自分の冴えない人生を憂鬱に思っているが、なにも手に入らないものだと思う事であきらめようとしている。そんなある日仕事の帰りにゴミ箱に捨てられた子犬を発見するボブ。要領の悪い彼は犬を捨てる事も出来ず、成り行きで飼う事に。犬の守護聖人からロッコと名付けた犬とそしてロッコを通してであったナディアにより、ボブの生活は少しずつ豊かになってくる。だがマーヴの店に強盗がはいり、またロッコの飼い主というチンピラが現れボブの生活に暗雲が立ちこめる…
翻訳した加賀山卓朗さんによる解説によると面白い由来のある物語で、始め簡単な短編があり、それをマッドマックスのトム・ハーディ主演で映画化。(日本では未公開のようだ。)その映画を元に(細部で異なる点もあるとの事)さらに長く書き直したのがこの小説。
探偵もののパトリックとアンジーシリーズ、ギャングものの「夜に生きる」、映画化もされた「ミスティック・リバー」などで”黒い”社会を書いてきたデニス・ルヘイン。今回は少し趣が異なる。というもの主人公ボブは場末(治安が悪い地帯、実際かつてマーヴのものだったバーはチェチェン人マフィアに乗っ取られている)のバーのバーテンで生計を立てている。恋人は勿論友達すらいない。真面目で優しい性格で頭は悪くないのに要領が悪くてみんなからは薄のろだと思われている。前半のボブと彼の生活の描写はとにかく灰色一色で、生きているのに全く楽しみのない生活が後ろにもそして前にもずっと横たわっていて、私(ボブのように真面目で優しくもないし頭も悪いのだが)の様な冴えない男にはもう読んでて切なくなってくる。犬を通して社会に再度馴染もうとするボブ。さすがはルヘインというべきかチンピラ、強盗、マフィアと不穏なアウトサイダーたちを生々しい描写で書き出し、物語を黒く塗りつぶしていく。「夜に生きる」などに比べれば規模の小さい話ではあるがその分悪意の嫌らしさが生々しい。教会に通い続けるボブを通して、罪というのは許されるのか否か、そして許されるとしたらそれは神によるのか、人によるのか、というのが一つのテーマになっているようだ。そんな中ボブが最後に下す決断というのは実際は切れ者のボブが次第に意図的に(読者の目からも)隠していたその本質を(別に騙している訳ではないから本性ではない)あらわにしていく様は、これまたカッコいいのである。
という訳で非常にオススメの一冊。とくに友達もいないよ…という冴えない男性諸氏は胸が締め付けられる事間違い無しなので是非どうぞ。
ルヘイン(レヘイン)の本で邦訳されているものはだいたい読んでいると思う。後「コーパスへの道」というのがあるんだけどこれは絶版になっている。どうにかして読みたいものだ。(電子はあるんだけど紙で読みたいんすよね。)
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