パルプ・ノワールの巨匠トンプスンの長編。
1964年に発表。ポップといっても原題は「Pop.1280」でこのピリオドというのは略していますよ、の意で本当は「Population 1280」、つまり人口1280人という意味だそうだ。
この物語は人口たった1280人の小さな町を舞台にしたノワール。
2000年のこのミステリーがすごい海外編で堂々1位。
人口1280人の小さな町ポッツヴィルで保安官を営むニック人はいいが遅鈍な人と思われ、妻からは意気地なしと罵倒され、売春宿のヒモには脅され、他の町の保安官には馬鹿にされる始末。しかしその実は自分がポッツヴィルの保安官でいるという目的のためには人殺しも辞さないサイコパスだった。せっせと不倫に励みつつ保安官再選の選挙に向けてニックは動き出すが…
田舎が舞台。顔が良くてとにかく女には不自由しない切れ者だが人格に重大な欠陥(アル中とか共感能力の欠如とかバリエーションはある。)を抱えている主人公がうちに秘めた(他人から一見隠しているが連続性のある)暴力性を爆発させるという概ねの筋は他の作品とも共通する。今回もウィスキーを片手に主人公である保安官ニックの軽口めいた語り口で物語は進んでいく。
おそらく冒頭から読者はニックの性格に戸惑うはずだ。食欲がないと良いながら沢山食い、眠れないと行って8時間も寝ている。どうも今回は本当にアホなのか?と思うのだが、89ページまで読むと暗い笑いがこみ上げてくる。いつもの奴だと。初めてトンプスン作品を読む人もとにかく89ページまでは読んでほしい。(言われなくたって読むだろうが。)
さて今作を人一通り読んでの感想は「暗い」。これにつきる。解説でも書かれているが糞尿方面に主人公の軽口が冴えまくるので抱腹絶倒度もテンションも今までの作品以上に高いのだが、読んだ後のこの虚無感はなんだろう。主人公が今まで以上にニヒリストだからだろうか?羊の群れに紛れ込んだ狼の様に異常な サイコパスだからだろうか?
今作は特に黒人差別をあげて露骨な社会批判成分が強めだが、トンプスンは最終的に黒人を差別する輩は勿論、そうでもない輩も一緒に滅んじまえと言わんばかりに、主人公に真っ黒い虚無を吐き出させる。
この本は色んなことが立て続けに起こっていくが結局自体がどうなったかというのは書かれていない。(削除されたというラストの2行は置いておいて。)主人公は不倫にうつつを抜かしていた訳でそれが大事件を引き起こしたが、主人公が泰然と構えているようにとくにそれが主人公に何かをもたらす訳では(今のところ)なさそうだし、ヒモの件もまあ大丈夫そうだ。じゃあ一体何が?というのがちょっと戸惑うところ。私はここに続いていく毎日の意味のなさ=生きる事の圧倒的な虚無と生きとし生けるものすべてにつばを吐く嫌悪感と厭世観を見て取ったのだが…
読書メーターでこの本のページを読むと同じ本でも様々な感想があって面白い。私はこの本を読んであまりの暗さと救いのなさに愕然としたのだが、下品でとにかく面白かった!という感想もあってなるほどな〜と思う。(前述の通り結局どうなったのか?という出来事が省かれている性も大いにあると思う。)
これが自分の感想だ!と思っているけどなんとなくもやっとしたあらかじめもっている感情とかを、偶々読んだこの本に投影しているだけなのかな?とも思ったり。この本を読んでどういう風に思ったのか、色んな人に聴きたいっすね。そういった意味でも非常にオススメの一冊!
そして前にも書いたんだけど、とても半世紀前に書かれた小説は思えない色鮮やかさ!まるで昨日書かれたかのようだ。これは作者トンプスンの手腕もそうだが、翻訳の三好さんによるところも大きいと思う。非常に読みやすい!是非どうぞ。
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