2013年に出版された。
今より未来の地球。地球の環境は人が住めないほどに汚染され、生き残った人々はサイロと呼ばれる地下に144階伸びる特別な施設で生き延びていた。食べ物はサイロ内の耕地を耕し、エネルギーは地下を掘り進むことで得る石油に頼り、人口統制のため出産は完全に統制され、サイロ内の上下の移動は中央を貫く階段で行う。
サイロの階層がそのまま人々の階層を表し、上層に住むもの立ちは下層に住むもの達を見下しているふしがある。市長が事実上サイロのリーダーだが、サーバーと呼ばれる過去の遺物を管理するIT部が実質的に大きな支配力と特権を有している極めて狭い世界。外部の汚染された世界への言及はタブーとされ、外に出たい、と口に出す、あるいは外部への脱出を試みると清掃と呼ばれる実質的な処刑の判決がくだされる。
防護服に身を包みサイロ最上部地表に突き出たレンズ(サイロ内上部にはモニタールームがあり、レンズが映す外の世界を見ることが出来る。)を拭く仕事が課せられるのだ。地表に出た後の行動は誰にも強制力がないのだが、不思議なことに今までの清掃でレンズを投げ出したものはいない。皆レンズを拭き、その後毒の大気で死に至る。
サイロの警察保安官であるホルストンは外の世界に出たいと自ら市長に明言、清掃に赴き、その公認として最下層機械部の女性ジュリエットが保安官に任命される。しかし過去ジュリエットと諍いのあったIT部部長は強くこれに反発。ジュリエットの波乱に満ちた保安官の日々が始まり、彼女は徐々にサイロのそしてこの世界の秘密に迫っていく。
兎に角設定が命の物語なのであらすじが長くなってしまって失礼。
この物語は面白い経緯、というか原題ならではの由来があって、著者ハウイーは作家志望で色々な職業を経た後作家を目指したのが、芽が出ず従来の形の出版に見切りを付けてAmazon.comのKindleストアにこの作品の一部を発表。するとあっという間に大人気になり
、(ストア史上で2番目に売れた作品だとか。)あれよという間に電子だけでなく紙でも、そして世界でも出版され、なんと映画の政策も決まっているとのこと。いわば現代ならではの出版サクセスストーリーである。
人類が一度大きな破局を迎えた後の世界を描く所謂ポストアポカリプスもので、多くが荒廃した世界そのものを舞台にするところ、その地下を極めて小さく書いたのが最大の特徴で、繰り返しになるが兎に角この設定がまた素晴らしい。なんともSF心をくすぐる。
否応無しに厄介毎に巻き込まれた主人公ジュリエットがなし崩し的に世界の謎に迫っていく訳なんだか、同時進行でもう一つの戦いがサイロ内で生じる。あらすじでも書いたが、サイロ内ははっきりとしたそういう法律があるのだが、なんとなく下層階層に身を置く人々ほど差別されるのである。それが清掃によって彼らの世界に綻びが生じ、たまった不満が反乱という形で実を結ぶと、こういう流れである。安全だと思っていた人類のゆりかごが二重の意味で存続の危機に陥る。一つは実質的な戦争。そして一つはジュリエットが暴くサイロの嘘とこんなになってしまった世界の謎の正体である。
世界の謎としてはサイロ内はともかくとして読者は結構早くに設定が推測できるように書いてあるので(ここは変に引っ張らせたりしないでいてとても好感が持てる。)だいたいこんなことが起こったのかな?というのは(登場人物の一人ルーカスへの教育を通して)程よくわかる。(はっきり何が起きたのかは次作以降明らかになるようだ。)
で、いわゆる反乱ものとしたら「月は無慈悲な夜の女王」の緻密かつ綿密な描写と緊迫感には正直歯がたたないと思う。とにかく敵との距離がないからあんなに悠長にやってられないのだろうが、いささか性急すぎるだろうとも。火縄銃の様なお手製単発ライフル対マシンガンでは勝負にならないのはそうだろうと思うのだが。それなら敵方も訓練を受けていない点がきになるし、IT部と機械部の人数が意図的に書かれていないが、どう考えてもエネルギー調達係である機械部の方が人数が多いはず。屈強な男達が揃っているのだから刃物や鈍器を手にベトナム戦争ばりの泥仕合を繰り広げてほしかった。
設定はとにかく良いんだけど、そこから動き出す物語がちょっと期待していたほどではなかったという印象。具体的に言うと設定と結論がありきで、物語がそれに向かってオートで動いている様なぎこちなさ、というか酷い言い方だがご都合主義的な展開が目についてしまった印象。ジュリエットの恋物語もどっかからもって来たような感じでイマイチ感情移入できず。
とはいえ敵役のホランドはいい感じの嫌らしさ+小物っぷりで中々良い。けなしてしまったが退屈でしようがないという感じは皆無で、さすがに物語が気になるので結構読み進める。私は次作は読まないつもりだが、設定が気に入った人はこの第1作目を手に取っても良いかもしれない。
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