日本のホラー作家による幻想小説。
角川ホラー文庫から出版されているが、内容的にはホラーというよりは幻想小説といっても良いと思う。主人公は男の子なのだが、直接彼の出てくる物語と大筋の物語に関連があるが別の物語があって全部で7つの物語で構成されている。
恒川光太郎は日本ホラー小説大賞を受賞した「夜市」とループものの表題作ほか2編を収録した「秋の牢獄」という本を読んだことがあって、たしかにどちらの本にも得体の知れない恐さが描かれているのだが、全体的には異界を書いたようなその不思議な世界観にいたく感動したもので、もうちょっとこういう話を書く日本人作家が増えたら良いのに、と思ったものだ。
久しぶりに読んでみようということで買ってみた。
11歳のタカシは両親ともに湘南の海水浴場に来ていた。両親はレストランの経営に失敗し、借金で首が回らず一家心中を企てていたが、すんでのところで謎の女性ユナの手引きで夜逃げすることになる。タカシは両親とはなれ、南の島「コロンバス島」で生活することになる。そこは現代にありながらも不思議な異界につながっていた。
子供が主人公ということもあって全体的に南の島の豊かな色彩に彩られた物語がゆったり進む様な印象がある。ただしそこは作者のことだから一筋縄の良い話で進む訳もなく、平和な島は実は不思議な異界との境界が曖昧になっており、怪異が少しずつ日常にとけ込んでいる。盆には先祖の霊が現出し、海からは過去からの異邦人が訪れる、島を巡るバスは時にとんでもない場所に乗客を連れて行く。
まるでおとぎ話のようだが、昔話めいた寓話性はなく、ひとまず教訓を求めるよりはその不思議な世界に入り込む様な楽しさがある。勿論ちゃんと考えられた作者なりの意味があるんだろうが、私はむしろ島で起こる様々な不思議なことを、端から眺めつつぐるっと島を巡るように本を読んだ。こういうことも起こるのかー、というのんびりとした様な感じである。
島に関わる様々なエピソードが7つの短編になって、視点と主人公を変えつつ展開される。よくよく読んでみると実は一見脈絡のない出来事も実は因果があって、物語全体を通して過去とそしてそれがあっての現在というテーマが根底にあるようだ。謎の呪術師ユナの出生や、引退した海賊の頭領で長いときの中で半分人間を超えた存在になったティユルのエピソード、タカシの友達ロブが先祖の霊にあう話などなど。因果といってもこうしろああしろ、お前が悪い、そういうのではなくて大波に浚われるよう流されて、必死で嵐の中漕いで来た今はここにいます、というような因果応報ではなく、運命のそのどうしようもない無情さと、その中で生きる人の営みの儚さというのが、その過去-現在-未来という一直線上にのっているように「コロンバス島」という不思議な島に集約されていて一つの物語になっている。
その不思議な世界はロールシャッハテストのインクのシミのようにじっと見ているとシミが動き出すような不気味さがあって、そして見る人によって一体それが何を表しているのかというのは変わっていくのかもしれない。
という訳であっという間に読んでしまった。感想を書くのはとても難しかったが、非常に面白いので是非手に取っていただきたい一冊。
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