オレンジの帯には「このラストは絶対予測不能!」という煽りと、「シックス・センス」などのM・ナイト・シャマラン監督の手による映像化(ドラマになるそうだ。)が決まったことが書かれている。この帯だけで何となくどんでん返し系の話だと見当がつくと思う。それもシャマラン監督だからかなりビックリする様な。
くらうちと打ち込むと倉内とまず変換されてしまうが、作者は勿論れっきとしたアメリカ人。1978年生まれだからまだ若い。この本は当初電子書籍の形式で発表されたが、その人気により紙での出版をも決まったそうだ。それで日本でも発売されたというのだから、この作品でブレイクしたのかとおもう。
美しい川沿いの芝生で目覚めた男、体中にひどい怪我を負っていて記憶にひどい混乱が生じ自分の名前も含めて思い出せることが極端に少ない。どうやら自分がいるのはパインズという小さな町らしい。町をさまよううちに倒れて病院に運ばれた男はやがて自分がシークレットサービスに勤めるイーサン・バークでとある捜査のためにこの町にやって来て交通事故にあったことを思い出す。捜査を進めようとするイーサンだが、町の人々は妙に非協力的で遅々として進まない。外部との連絡も取れず孤立するイーサンは次第にこの町が何かおかしいことに気づく。
自分以外のみんながグルになって自分を騙そうとしている考えは人間誰しも持つものではないだろうか。私も幼い頃そんなことを考えてはおびえつつもおもしろがったものだ。ジム・キャリー主演の「トゥルーマン・ショー」(なんと98年公開だった。)を覚えている人もいるのでは?
さてこの小説勿論終盤も終盤もドキドキして面白いのだが、なんといっても一見美しい小さな田舎町がよくよく見てみると少しずつ変だと分かっていく序盤のあたりが恐くて面白かった。良かったのが違和感をあまり装飾して曖昧にせず、露骨におかしいと分かるように書いたこと。この書き方だと明らかに現状が不自然であるという印象を読者にあまりに速めに知らせてしまうことになる、という弱点があるのだけど、結果的にそれを補ってあまりあるほどの緊迫感が出せていると思う。
数の暴力の恐さがあって、シークレット・サービスとしてかなり強めの法的権限を持っているはずのイーサンの言い分が全然通らない。いわば法律が通じない前近代的な原始世界に放り込まれたイーサンがとにかく痛めつけられるのだが、ある種の権力が根源的には暴力によって支えられていることをじわじわと実感させられる様な嫌らしさがあって、なんともやるせない。
またこの種の物語には常に「自分の方がおかしいのか?」という疑問が周囲の奇妙さと対比的にあって、それが話をさらに面白くさせるスパイスである。実は発狂しているのでは?妄想なのでは?そんな疑心暗鬼が面白いのはこれも日常生活に存在する普遍的な感情なのかもしれない。
どうしても衝撃のラストがフィーチャーされてしまうが、意外にもこういうこと誰でも一度は考えるよな、という普遍的なエピソードをいくつか集めて、それらを誇張強調して一つの物語に組み立てた様な丁寧さがあって、結構優れた小説なのではなかろうか。落ち頼みの小説でなくて、徐々に盛り上げていく序盤、何か決定的におかしい中盤、そして怒濤の様な終盤からオチにノンストップで突っ込む様なこの構成、なかなか技巧的。
典型的な嫌らしい保安官、ミステリアスな美女、姿を見せないが不吉な予感を振りまくクリーチャーなどなど、それだけで面白そうなキャラクターやアイテムがてんこもりでこれでもかというくらいのエンターテインメント小説。
面白かった。オススメ。
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