2013年7月15日月曜日
冬のフロスト/R・D・ウィングフィールド
フロスト警部シリーズ第5弾。
丁度はまったタイミングで新刊が東京創元社からリリースされて嬉しい限り。
解説はなんと養老孟司さんが書いております。
イギリス郊外の町デントンはまたも連続する犯罪の災禍に見舞われていた。
8歳の少女が失踪し、売春婦たちが拷問されレイプされた後に殺害される。怪盗枕カバーが暗躍し、バス満載のフーリガンが暴れ回る。フロスト警部は重い腰を上げて事件に取り組むが…
話の筋的にはモジュラー型で兎に角事件が頻発しまくります。
事件の陰惨さのレベルは前作かそれ以上で、軽口と下品なジョークのオブラートに包まれていますが、今回も社会的弱者である子供と売春婦を狙った卑劣かつ凶悪な事件が話の軸になります。
スタイルは今までのシリーズを踏襲していますが、今回は相棒が面白い。ワンダーウーマン、リズ・モードは引き続き登場しますが、今回フロストの相棒を務めるのはタフィ(芋にいちゃん)ことモーガン刑事。こいつは口は達者なんだが、ねっからの女好きで遅刻魔、怠け者でへまばかりこくという、いわば小フロストともいうべき駄目人間です。フロストの場合はそれでも経験による勘と鋭い観察眼による推理と考察がありますが、こいつは兎に角ヘマばかり。それでもフロスト親父はこいつを決して見捨てません。妙に保護者みたいになってしまって、いつもみたいにぐうたらしてられない訳です。ここが新しくて面白いです。5作目ともなるとある程度マンネリ化してきてしまうところを、こうした新しい要素を入れることで新鮮さを保っていますね。
今回はフロスト警部かなり追い込まれます。
前の記事にも書いたけど、このシリーズは所謂警察小説は一線を画します。捜査というのがかなり他の小説とは異なる訳です。フロストの捜査は簡単で、事件の周辺にそれらしい怪しいやつがいたらとりあえず署に引っぱり、尋問する。証拠はあとから見つけるか、でっちあげれば良い。こうやって書くととんでもない不良警官ですが、フロスト警部は事件の解決が一番。証拠やアリバイを超越するのが、自身の勘です。こいつが犯人に違いないと思ったら、どんな妨害や反証があってもそいつに食らいついて話さないのがフロストのスタイル。今回はそのある種ずさんな前近代的な捜査スタイルが徹底的に糾弾されることになります。マレットの嫌らしさはいよいよ増してきて味方どころか捜査の一番の敵になります。ある出来事から疑心暗鬼に陥るフロスト。自身の捜査方針が勘というとても危うい根拠に由来していることを勿論本人は自覚しています。自分が間違っているのではないか?と常に自問するフロスト。そして予想を裏切らず空振りに終わる捜査。手に汗握る展開。フロストのやり方は正しいのか?間違っているのか?フロストは主人公ですが、作者は今回あえてこういう書き方をすることで読者に問いかけているように思いました。
しかし毎回思うのだが芹澤恵さんの翻訳は素晴らしいですね。この作品はジョークにあふれていますが、よく考えたらジョークを訳すのってとてつもなく難しいんじゃなかろうか。「ふとんがふっとんだ」なんて英訳したら「blanket is blown away」(適当です!)じゃないか。まったく意味が分からない。こんなにするっと読めてしまうのだから、相当すごい。
相変わらずの面白さで満足。
残り1タイトルかあ。
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