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2017年7月23日日曜日

R・D・ウィングフィールド/フロスト始末

イギリスの作家による警察小説、フロスト警部シリーズ第6作目にして最終作。
怒りに満ちた小説である。おそらくこのシリーズの以前書いた感想でも書いたと思うが、怒りに満ちた小説であると思う。フロスト警部シリーズといえば、下品なオヤジフロストが主人公、イギリスの郊外の街デントンの警察官で見た目はむさ苦しい、毎日同じヨレヨレのスーツを着ているオヤジで、経費をちょろまかしたり、後輩に指で浣腸をかましたり、下品なオヤジギャクをかましたりと、ユニークな人柄でちょっと面白い警察小説みたいなイメージがありそうだし、実際はそうなんだけど、ユーモアに富んだ警察小説です、といえばこの本の魅力を半分も説明できていない。バラバラに切り刻まれた死体、女子供に対する暴力、強姦、そして殺人。楽しげなユーモアのすぐ下には陰惨な事件が描かれている。そしてそれを犯すのは普通の人間たちなのだ。陰惨さのインフレを起こしている犯罪小説界ではどんな陰惨さも既知のものである。新しい化け物としてシリアルキラー、サイコパスなんて単語ももうなんとも珍しくない。その傾向から真逆に舵を切ったのがこのシリーズである。普通の人間が犯罪を犯す、そんな当たり前を描いている。フロスト警部シリーズはリアルだ。もちろん完全にフィクションだが、生々しさという点では他の小説より群を抜いている。描写は紳士的だが、人間が犯罪を犯すその愚かさ、勝手さ、傲慢さの描写は私たちの生活の延長線上にある。犯罪者ではないがとにかく評価のことしか気にかけないマレット署長、新登場のスキナー警部など見れば私たちの周りにいそうな嫌な奴、その本当にいやらしい本性をまざまざと書いている。こういう身勝手な奴らが真面目に働いている人間の働きを台無しに、手柄を掠め取っていくのである。嫌になる日常、嫌になる程普通の日常、サイコパスではない隣人が汚らしい性欲を満たすために犯罪を犯す、その醜さ。それら犯罪に対して立ち向かっていくのがフロストな訳だけど、この人フロスト警部は決して銃を撃たない。ものには当たっても暴力は振るわない。ぼやきながらも誰よりも働く。誰よりも働くからミスも目立つ。(もし同じ確率で人がミスをするなら、たくさん仕事をする人が一番ミスが多い。)今作でははっきり書かれているが、フロスト警部は出世なんかどうでも良い。クタクタになるまで働いているのはなぜ?はっきりと明言されていないが、間違いない、それは罪のない市民(この時罪のないというのは聖人ではなくて普通にあつかましいけど人を傷つける意思のない人、冒頭の赤ん坊誘拐されたと喚く娼婦を思い出して欲しい。)を守ること。だから今作では犯人を逮捕するというよりは、行方が分からない子供の心配をしているのがフロストなのだ。世に警察小説はいっぱいあって、色々な刑事たちがいるけど、ひょっとしたら私は冗談抜きにフロスト警部が一番かっこいいのではと思う。今回彼は窮地に立たされていることもあって、いつも以上にうまくいかなかった自分の結婚生活に思いを馳せていることが多くなった。幸せだった日常がいつ壊れてしまったのだろう。好き合っていた二人がなぜいがみ合うようになってしまったのだろう。あるのは後悔で、そしてそれはもう取り返しのつかない昔の出来事なのだ。誰しもきっと分かるはずだろう、あの時こうしていれば、きっと誰でも一つや二つやあるいはそれ以上あるだろう。フロストはそんな思いを抱えて、疲れた体に鞭打って働く。そこには私たちの生活が透けて見えるような気がする。私はそんなにかっこよくないが。そこでも悲喜こもごもの、大抵は辛いことの多い毎日が優しく推奨されているように思うのだ。

原題は「Killing Frost」だが本当は「An Autumun Frost」だったらしい。作者のR・D・ウィングフィールドが亡くなってしまったのでこの題名に変更されたとか。本当ならもう何冊か読めたのかもしれないと思うと切ないが、これでフロスト警部とはお別れである。オヤジギャクで包んであるけど、その実人を人と思わない傲慢な奴らに対しての怒りに満ちた小説だと思う。本当に楽しかったぜ、6冊(上下に分かれているから実際はもっと多いけど)を読むのは。最高にかっこいい男が出てくる最高の小説だと思う。芹沢恵さんの翻訳も本当バッチリだ。オヤジギャクを邦訳するのとか大変だったんではなかろうか。村上かつみさんの表紙絵も良い。フロストといえばこの顔で固定されている、私の中では。
面白い警察小説を読みたいなら是非読んでいただきたいシリーズだ。読んだ後ポジティブな気持ちになれる最高のシリーズ。ぜひぜひどうぞ。

2013年7月15日月曜日

冬のフロスト/R・D・ウィングフィールド


フロスト警部シリーズ第5弾。
丁度はまったタイミングで新刊が東京創元社からリリースされて嬉しい限り。
解説はなんと養老孟司さんが書いております。

イギリス郊外の町デントンはまたも連続する犯罪の災禍に見舞われていた。
8歳の少女が失踪し、売春婦たちが拷問されレイプされた後に殺害される。怪盗枕カバーが暗躍し、バス満載のフーリガンが暴れ回る。フロスト警部は重い腰を上げて事件に取り組むが…

話の筋的にはモジュラー型で兎に角事件が頻発しまくります。
事件の陰惨さのレベルは前作かそれ以上で、軽口と下品なジョークのオブラートに包まれていますが、今回も社会的弱者である子供と売春婦を狙った卑劣かつ凶悪な事件が話の軸になります。
スタイルは今までのシリーズを踏襲していますが、今回は相棒が面白い。ワンダーウーマン、リズ・モードは引き続き登場しますが、今回フロストの相棒を務めるのはタフィ(芋にいちゃん)ことモーガン刑事。こいつは口は達者なんだが、ねっからの女好きで遅刻魔、怠け者でへまばかりこくという、いわば小フロストともいうべき駄目人間です。フロストの場合はそれでも経験による勘と鋭い観察眼による推理と考察がありますが、こいつは兎に角ヘマばかり。それでもフロスト親父はこいつを決して見捨てません。妙に保護者みたいになってしまって、いつもみたいにぐうたらしてられない訳です。ここが新しくて面白いです。5作目ともなるとある程度マンネリ化してきてしまうところを、こうした新しい要素を入れることで新鮮さを保っていますね。

今回はフロスト警部かなり追い込まれます。
前の記事にも書いたけど、このシリーズは所謂警察小説は一線を画します。捜査というのがかなり他の小説とは異なる訳です。フロストの捜査は簡単で、事件の周辺にそれらしい怪しいやつがいたらとりあえず署に引っぱり、尋問する。証拠はあとから見つけるか、でっちあげれば良い。こうやって書くととんでもない不良警官ですが、フロスト警部は事件の解決が一番。証拠やアリバイを超越するのが、自身の勘です。こいつが犯人に違いないと思ったら、どんな妨害や反証があってもそいつに食らいついて話さないのがフロストのスタイル。今回はそのある種ずさんな前近代的な捜査スタイルが徹底的に糾弾されることになります。マレットの嫌らしさはいよいよ増してきて味方どころか捜査の一番の敵になります。ある出来事から疑心暗鬼に陥るフロスト。自身の捜査方針が勘というとても危うい根拠に由来していることを勿論本人は自覚しています。自分が間違っているのではないか?と常に自問するフロスト。そして予想を裏切らず空振りに終わる捜査。手に汗握る展開。フロストのやり方は正しいのか?間違っているのか?フロストは主人公ですが、作者は今回あえてこういう書き方をすることで読者に問いかけているように思いました。

しかし毎回思うのだが芹澤恵さんの翻訳は素晴らしいですね。この作品はジョークにあふれていますが、よく考えたらジョークを訳すのってとてつもなく難しいんじゃなかろうか。「ふとんがふっとんだ」なんて英訳したら「blanket is blown away」(適当です!)じゃないか。まったく意味が分からない。こんなにするっと読めてしまうのだから、相当すごい。

相変わらずの面白さで満足。
残り1タイトルかあ。

2013年6月23日日曜日

R・D・ウィングフィールド/フロスト気質

フロスト警部シリーズ第4弾。
物語はいよいよ長くなり、ついに上下で分冊と相成りました。
相変わらずの面白さです。

イギリス郊外の町デントン。所謂ぱっとしない田舎町に赴任した部長刑事リズ・モード。上昇志向の強い彼女は警部の一人が不在の今こそ手柄を立てて出世への手がかりにしようと意気高揚していた。おりしもデントンでは乳幼児の傷害事件に加え、子供の殺人事件、富豪の娘の誘拐事件、子供の失踪事件が同時多発的に発生し、混乱を極めていた。これらの事件をある種のチャンスと捉える彼女はしかし、デントン署きっての風采の上がらないお荷物警部フロストのもとで働くことを余儀なくされる。下品で粗野、礼儀知らずでうだつの上がらないフロストのもとで。さらにフロストやデントン署の面々と因縁のある警部代行のキャシディが赴任し、自体はさらに混迷の一途をたどるのである。

今回はメンツにちょっとした変更があって、ライバルのアレンは今回も早々に退場。相棒になる「坊や」はなんと今回女性刑事の「嬢ちゃん」に。相変わらず自信家で上昇志向なのはかわらないが、今回の相棒は全3作の最後までフロストの本質を身抜けたかった坊やたちに比べるとにくらべると今回は結構かわいげがある。マレットは本当に嫌なやつだが(本当に回を重ねるごとに嫌らしさが増してきてる)、今回はさらにジム・キャシディというキャラクターが出てくる。役目的にはアレンの代わりなのだが、過去にとある因縁があって兎に角フロストに絡む。上昇志向がつよいのはいいにしても、性格が悪く意外に小物で我が強いからみんなに辟易されている。こいつがいろいろと自体をかき回す訳である。話の筋としては今回も所謂モジュラー型で事件が立て続けに起こるから、4作目にして混乱はいや増すばかりである。

さてフロスト警部ものというと主人公であるフロストの強烈なキャラクターでもってして、警察小説の中でもかなりコミカルな部類に入るのではなかろうか。殺人事件などの犯罪を扱うのであるから、シリアスであるんだけど、全体的にそこまで陰惨にはならない。私は当初そう思っていた。ところが前作を読んでからちょっとその考えを改める必要があるかもしれないと思った。前作は老女連続殺人事件という軸があって、文字通りフロストはその犯人であるサイコキラーと対決した訳だ。性質上ほかにもいろいろな事件が発生し、また繰り返すがフロストのキャラクターでもってなんとなくコミカルにまとめられている。しかしこれはカモフラージュというか作者の読者に対する配慮ではないか?と考えるように至った。前作は陰惨さ凶悪さがかなり増して、形だけでいえばアメリカのサイコキラーものの警察小説と遜色がない気がする。勿論派手な科学捜査やプロファイリングは出てこないけど、(私の考えでは)そんなものはギミックであり、警察小説の本質ではない。作者は作品の暗さをあえてコミカルさで覆い隠してしているような印象を受けた。誤解がないようにいいたいのは暗さを書いていないということじゃない。しっかり描いているけど、それが、それだけが作品にあふれかえらないように配慮がされているのではないかと思っているのだ。
今作を読んでその思いが強くなった。今回はメインになるのは子供に対する殺人と誘拐がメインである。思えば老人や浮浪者、子供など作者は常に弱きものを書いてきた。弱い人たち、駄目な人たち(酔いどれや宿無しもたくさん出てくる。)を本当にリアルに紳士に描いたけど、常にその扱いには(フロストを通して)優しさがあった。弱いものたちへの愛があって、フロストは彼らを決して見捨てない。浮浪者をぞんざいに扱う部下には怒ったし、時には加害者に同情することだってあった。どんなやつが殺されても、必ず自分で家族に報告に行く、それがフロストだった。
フロストは警官ですらないかもしれない。フロストは実は警官の流儀や動機で動いていない。今回誘拐事件に挑むフロストははっきりと子供の発見を犯人の逮捕より優先すると断言する。署長に対してだ。警察官は法を犯したものをとらえるのが仕事なんじゃなかろうか。勿論未然に犯罪を防ぐことや、誘拐された子供を無事に保護することだって警察の仕事であることは間違いないと思う。でも犯人を逮捕するということは所謂花のあるしごとではなかろうか。とかくフィクションである小説の中では。しかしフロストは否であるという。俺は子供を助けたい。死んでいるかもしれんが、子供を見つけて親元に帰してやりたいというのである。そのことで犯人を捕まえられなくても俺はしょうがない、というのである。私はいったいどちらが正しいのか分からない。けどやっぱりフロスト警部は弱いものの味方であって、彼らを決して見捨てないのだ。軽口をたたいて下品な冗談をいくら喋ったってフロスト警部は常にぶれないのだ。本人も気づいていないかもしれないが、適当(彼が適当であるのは間違いない、そこが面白い。)な本質の下には弱いものたちへの愛があって、だから彼はそういった人たちを食い物にする犯罪(罪を憎んで人を憎まず)を憎み不眠不休で働き続けるのだと思う。

フロスト警部ものはコミカルな小説であることに間違いはない。吹き出したり、声を出して笑っちゃうところもたくさんある。ただしあなたがこれを警察小説の形をとった風采の上がらない親父がなんとなく事件を解決してしまうコミカルなだけの物語と思っているのな、それは大きな間違いである。喜劇性の覆いをとれば、そこにあるのは残虐な犯罪とそれに苦しむ人たちである。誤解している人たちにこそぜひ読んでいただきたい。これは正義の人のお話である。
作者の逝去が残念でならない。ここまで来たらフロスト警部の長編は残り2作である。

2013年6月16日日曜日

R・D・ウィングフィールド/夜のフロスト


イギリスの名物警部フロストが活躍するシリーズ第3弾。
1992年発表、本邦に訳されたのは2001年のようです。
すっかりはまってしまいました。

イギリス郊外の町デントンでは流感(インフルエンザ)が大流行。デントン署も病欠が頻発。そんな中示し合わせたように事件の災禍が猛威を振るう。誹謗中傷の手紙、行方不明の女子高生、新婚の夫婦に対するいやがらせ、そして連続老女殺害事件。人手不足のデントン署で病気とは無縁のジャック・フロスト警部が勤務超過上等で事件に立ち向かう。

さて今回も事件が次から次に起こり、フロスト警部も読者も休む暇がありません。こういう風に様々な事件が連続して起こるミステリをモジュラー型というそうです。回を重ねるごとに同時進行する事件が増えていくようで、容疑者や目撃者を覚えるのがちょっと大変でした。
相変わらずフロストは軽口と冗談と下ねたを連発しながら、マレットに説教されつつ、超過勤務をいとわず精力的に事件会月に奔走する訳なんですけど、今回の事件はことさら手口が残酷です。メインとなる事件の一つ連続老女殺人事件なのですが、その手口と描写の生々しさがかなりリアル。アメリカはハリウッドのサイコホラーで映画が一本撮れそう。今までの事件ももちろん人が死んだりしている訳だし、残酷ではありましたがフロストの性格もあって読者的には割と楽しく読めたのですが、今回はフロストの軽口を持ってしてもその残酷さを覆い隠しきれない…目撃者や被害者の人生も結構細かく描写されていて、人が殺されるという悲劇とそのやり切れなさを眼前につきつきられているようでした。現代社会で周囲との関係性が希薄になり孤立した老人たちの生活を問題提起しているとまではいいませんが、ひねくれ者の(と私は勝手に思っています)作者のことだから、エンターテインメントとしての小説の中で、それも人の死が面白みの中心的な要素になるミステリ小説の中であえて、人が死ぬということをオブラートに包みながらも紳士に書いているんではなかろうか。ミステリといっても警察小説だから、主題となるのは犯人探しとしても本格のそれとは趣が異なる訳で。また我らがフロスト警部は相も変わらず推理を外しまくる。直感を信じて証拠をねつ造する。このフロスト警部シリーズはもちろん警察小説なのだけど、ほかのそれらとはちょっと違う。もうちょっと事件という現象について焦点をあわせて書かれているようだ。人情小説というのは出はないが、それが(個人レベルの)社会においてどういう意味を持っているのか、というところに面白さがあるような気がしてきた。首をかっ切るという手口は今はもうありふれてさえいるのかもしれないが、私がそれを残酷だと感じたのは、逆説的になるかもだが、この小説が小市民の日常や毎日を丁寧に描写してるからなのかもしれないと思った。

さあそんなことをもちゃもちゃ考える必要もない面白い小説ですので、気になった皆様はぜひ1作目から読んでいただきたい。

2013年6月8日土曜日

R・D・ウィングフィールド/フロスト日和

イギリスの架空の郊外デントンを舞台にむさ苦しい中年警部フロストが活躍する警察小説シリーズ第2弾。原題は「Touch of Frost」。
1997年の「このミステリーがすごい!」海外編で堂々第1位になった名作です。

連続婦女暴行魔が跋扈するイギリス郊外の町デントン。
市内のビクトリア時代にたてられた公衆便所に浮浪者の死体が浮かんだ。
さらに実業家の一人娘が失踪。議員の息子が運転していたと思われる車に老人が車に轢かれる。スツリップバーでは強盗に上がりを強奪される。
次から次に頻発する事件にデントン署の名物警部フロストが挑む。

このシリーズ他の警察小説と比べると面白い点があって、それは様々な事件が立て続けに起こること。もちろん一見関係ない事件が実は見えない糸でつながっていて〜というケースは結構ざらにある。要するに一つの事件が中心に据えられていて、主人公たちがそれの解決挑む訳で、本当に関係ない事件は発生するにしてもあまり詳しくは書かれないのが普通だけど、このフロストものではかなりいろいろな事件が起こる訳なんだけど、関連があるのもあるけど、関連がないのもあってかなり混沌とした状況になっている。事件の謎を追うという楽しみももちろんあるけれど、このシリーズはそれに加えて混沌とした捜査状況を描くこともテーマのひとつなんじゃないかと思った。
とにかく常に人員は足りないし、フロストとその相棒は本当に寝る暇なく働いている。そんじょそこらのブラック企業が裸足で逃げ出すレベルで。
フロストはそのむさ苦しいなりに鋭い観察眼と豊富な経験に基づく直感を備えている。下品な冗談を連発して、周囲を辟易させながらも見るべきところは決して見逃さない。そんなフロストのひらめきや仮説もことごとくうまくいかない。予想が外れる。証拠がない。部下は落胆する。相棒からは軽蔑される。上司からは説教される。それでもフロストはあきらめない。現場には必ず足を運ぶ。参考人のもとには足しげく通う。怪しいやつには食らいつく。フロスト警部はへこたれない。ここが警察官としての彼の本当の強さだと思う。鋭い直感や観察眼も実は彼の強さの本質的ではない気がする。
時にどぎつすぎる軽口をたたきながら、自分の足を使って難事件にがっぷり四つで立ち向かっていく。
前回のお話の感想でフロストは優しいと書いたけど、優しいという言葉だけでは表現しきれない彼の人となりが少しずつ明らかになるようでそこも楽しみの一つ。

またこのシリーズ脇役がとにかくいいキャラしている。
今度のフロストの相棒は元々警部だったけど、上司を殴って降格、デントン署に左遷されてきた若者でとにかく血気盛んで手が早い。ここまで書くと一見いいやつなんだけど、前作同様フロストの頭の切れには気づかず、終止彼のことを見下している。こういうキャラを脇に置くことで、フロストのだらしなさ(フロストは一見だらしないが、というのではなく本当にだらしない。)と、その背後にあるひらめき(本人は直感という。)と賢さが強調されるのかと思う。ただフロストはあまりにもへこまれされたりするので、もっと味方になるようなやつがそばにいたらなあと思って、結構やきもきする。

また署長で警視のマレットは1作目でも嫌なやつだったけど、回を重ねるごとに嫌らしさと小物感が増してきて実に腹が立つ。これがまた名脇役といえる。

う〜ん。面白かった。
前作を読んだ人には文句なしにおすすめです。
気になった人はやっぱり1作目から読んでね。

2013年5月12日日曜日

R・D・ウィングフィールド/クリスマスのフロスト

イギリスの作家によるミステリー/警察小説。
シリーズ物の第1作で日本では1994年に出版されたようだ。
所謂人気シリーズで「週刊文春」や「このミステリーがすごい」で第1位に選ばれたこともあるそうだ。私がもっているのが42版だから、その重版回数から人気のほどが伺える。
残念なことに著者のR・D・ウィングフィールドさんは既になくなってしまっているらしい。調べてみると変わった人だったようで、長らくラジオドラマの脚本家を生業としていたらしいが、マスコミ嫌いでほとんど写真が残っていないそうだ。

イギリスの郊外、ロンドンから70マイル離れた町デントン(架空の町。)に警察長の甥で刑事に昇進したクライヴが派遣されてくる。
着任早々美貌の娼婦の娘が行方不明になり、クライヴは成り行きでデントン署の名物警部フロストのもとで働くことになる。
よれよれのスーツに身を包み、下品な冗談を連発する冴えない中年のフロスト、机の上は書類でいっぱい。捜査会議には遅刻する。独断専行で捜査に乗り出す。度を超したワーカホリック。全く尊敬できない上司に腐るクライヴはしぶしぶフロストに従うが、難航する捜査に焦る捜査陣をよそにひょうひょうとしたフロストの推理は冴えていく。果たして事件の真相は…

とにもかくにも主人公さえない中年刑事フロストのキャラクター造形が素晴らしい。
刑事物や探偵もので一見冴えないが、実は切れ者、というキャラクターはなくはないと思う。一番有名なのは刑事コロンボだろうか。もっさりしたコロンボはそれでもどことなく気品があるが、フロストは徹底的に気品がない。超下品。(ちなみに同僚に指で浣腸して大笑いするたぐいの下品さ。悪ガキである。ガキならかわいげがあるが、いい大人だから厄介だ。)かなりどぎついことをぽんぽんいうし、上司の命令は無視する。尊敬という概念がないようだ。本音しかいわないようだが、本当のところはどこか見えない。
しかし読み進むにつれてフロストの評価がかわってくる。どこか憎めないやつだと思うけど、何がそうさせているのかは分からない。言葉に惑わされてはいけない。よくよく読み進めていくとどうだろう。フロストの鋭さ、執念深さ、不退転の不屈さ、そして刑事としての観察眼と勘の鋭さ。フロストは一見敏腕刑事から一番離れているようだ。しかし実際にはどうだろう?繰り返すが言葉に惑わされてはいけない。面白いのは本人が昼行灯を気取っているのではない。頭はすごい切れるが、おそらく天然なのだ。

ここで引用を一つ。
「正義なんてものは、ただのことばだ。あの若者がしらを切り通していたら、あるいは嘘をついて、いきなり婆さんが車の前に飛び出して来たんだと言い張ったら、罪に問われることはなかった。ただの目撃者だからな。だが、彼は自分のしでかしたことを正直に告白した。ひと一人殺してしまったことに対して、誠実に心を痛めている。それでも、あの若者は処罰を食らうことになるんだ。それもかなり重い処罰をな。」
作中のフロストの言葉である。車で老人をひき殺してしまった若者に対しての。若者は意識不明となった老人の容態がはっきりするまで深夜遅くまで警察署に残っていた。
この言葉がフロストの人となりを表していると思う。事故とはいえひとを殺めてしまうことは悪いことであると思う。罪を悪んで人を悪まず、とは格言だが、これを実践できる人物というは虚構の世界でもまれなのではなかろうか。優しいのとは違う。むしろ厳しいんではないかと思う。ただし公平なのだ。フロストというひとは。神のような公平さではないし、ひとによって態度も変えるけど、彼というひとはラベルを貼ってもののように取り扱わない。一番根っこの部分にその公平さがあると思う。そしてそこが魅力的なのだ。

有名なシリーズではあるからご存知のひとも多いかと思う。
まだ読んでいないひとは読んでみてください。おすすめです。