2013年12月31日火曜日

パトリック・デウィット/シスターズ・ブラザーズ

カナダ出身アメリカ在住の作家による犯罪小説で西部劇。
こちらの本も前々から気になっていたのだが、年末になって国内で様々な賞をとっていたので購入。アメリカでもブッカー賞の最終候補になってたりして25カ国で出版されているとのこと。
ちなみに日本での受賞歴はこちら。東京創元社のサイトから引用です。
*第2位『闘うベスト10 2013』
*第4位『このミステリーがすごい!2014年版』海外編
*第5位(新人賞第1位)『ミステリが読みたい!2014年版』海外編
*第10位『週刊文春 2013年ミステリーベスト10』海外編

作者はパトリック・デウィット(デヴィットではない)でこの彼にとっては2冊目の小説で一躍有名になったそうです。

西部開拓時代の少し前、アメリカはゴールドラッシュにわいていた。オレゴン州で殺し屋を営むシスターズ・ブラザーズの兄弟はボスの「提督」からとある山師を消すために甘煮乗りサンフランシスコを目指す。

シスターズ・ブラザーズとは何とも人を食ったようなタイトルだが、実際はチャーリーとイーライという2人の兄弟の名字がシスターズ。
兄のチャーリーは自信家で狡猾。ひどい酒飲みで粗野で人を利用することに長けている。
弟のイーライはデブ(縦にも横にもでかい)で、優しくて惚れっぽい。すぐ人に良いようにされてしまう正確だが、切れると見境が無い。
小説は弟イーライが語り手となって進みます。イーライはお人好しなところがあるからちょっととぼけたような趣があって結構笑っちゃうような場面もあるんだけど、やはり2人は殺し屋でしかもだまし討ちだって平気の平左でやるもんだから、そのとぼけた感じと凄惨な感じが相まってかなり独特な世界観になっている。
一つ面白いなと思うのは、このイーライという男は半ば殺しに飽き飽きしていやになっているんだけど、やっぱり骨の髄まで殺し屋であって、自分が思っている以上に普通の人間からかけ離れている。本人はそんな自覚は無いんだろうけど。つまり一般人の読者としては語り手の異常さが意図的にわかるようになっていて、そこが彼の独白とずれていてある種の面白さが産まれているように感じました。恐ろしくもあり、ちょっとかわいそうでもあります。

殺し屋の兄弟はターゲットを抹殺すべくサンフランシスコに向かう訳なんだけど、現代ならそれこそ飛行機でひとっ飛びだろうが、何と言っても開拓時代なんだから馬に乗ってテクテク旅することになる。ターゲットの山師に会うまでの道中でいろいろな人にあって、いろいろな事件が起こる。いわばロードムーヴィーみたいな作りになっている。
といっても粗野な2人なのだから必然的に大半の登場人物とは銃を手に剣呑な状態で渡り合っていくことになる訳で。2人の通った後には硝煙と血と死が残される訳であります。
一体旅の果てにイーライとチャーリーがどこにたどり着いたのか、ぜひ読んでいただきたいところです。
個人的にはこの話全体が寓話のように感じられました。具体的にこうこうこれの暗喩です、と断言できるのではないのですが。あえていうと人生の暗喩なんですが、そういった意味ではいかなる小説も人生の暗喩だと言って差し支えが無い訳ですから、ちょっとこの表現だと十分ではない。例えば因果応報だったり、盛者必衰だったりちょっとそういった東洋的な思想を感じさせるような作りになっております。
面白いのは楽しくドンパチやっていたと思ったら、なんだかとても渺茫としたところにたどり着いてしまったような、そんなはかないような切ないような、そんな読後感があります。こういった類いの犯罪小説にはちょっと無い感じに仕上がっている訳です。

本国ではコーマック・マッカーシーの小説との類似性も指摘されていたりするそうで、なかなか一筋縄では行かない苦い小説であることはわかっていただけるのではないかと。
しかし抜群に面白い小説であることは間違いないので、是非手に取っていただきたいと思う訳であります。

Lycus/Tempest

アメリカはカリフォルニア州オークランドのフューネラルドゥームメタルバンドの1stアルバム。
2013年に20 Buck Spinからリリースされた。ジャケットがお洒落。

結成は2008年で停止期間を挟みつつ初めて世に出たのがこのCDな訳なのだが、結構界隈では有名らしく、まあその流れに乗って私も買ったんだけど。
なんでそんなに注目されているかというとメンバーの一人が元Deafheavenなんだよね。Deafheavenといえば(ファッション・サブカルクソ野郎で)今年リリースした名作「Sunbather」が賛否両論を巻き起こし(私が見たのは大体賛のほうだったんだけど、批判している人の意見も見てみたいな。)たあのバンドです。シューゲイザー+ブラックメタル+激情ハードコアのようなスタイルでまさに一世を風靡したある意味今年の顔のようなバンドじゃないかしら。そのDeafheavenでドラムを叩いていたのがTrevorさんといって上の写真の左端の人。なんとまだ23歳だとか。

自然とお洒落なかつキラキラした音への期待が高まる訳だけど、聴いてみるとこれがフューネラルドゥームなんだよね。
Trevorよ、おまえなして若い身空でこげな地獄のような世界に自ら飛び込んでしもうたんよ…
というわけではないんだけど、なかなか気合いの入ったフューネラルっぷりで若気の至りなどもう皆無な徹底的に絶望的なその音楽性に思わず居住まいを正したよね。
遅い、重苦しい演奏陣に、これまた低音のデス声が苦しいーと乗る伝統的なスタイル。
ドラムの音はタスタスしているのだが、寝ているんじゃないかと思うくらい叩かない。
ギターとベースはフューネラル特有の基本音数が少ないずーんずーんとカーテンのように苦しみが持続するあのスタイルです。
いわばフューネラルドゥームのイロハにそった伝統的なスタイルなんだけど、このバンドが面白いのは基本を踏襲しつつ自分たちのスタイルを確立しているところ。
簡単にいうと曲の展開が凝っていてまるでグラデーションのように、基本から実験的な展開に自然に展開させている。
その実験的なスタイルというのは、疾走するパートだったりもするんだけど、一番目立つのは音の数を増やすことではなかろうか。それこそDeaheavenのような派手さは無いが、ブラックメタルを彷彿とさせるトレモロっぽいギターが結構随所に挿入されている。これが実に饒舌かつメロディアスで灰色のようなフューネラルスタイルに程よく多彩な色をさしています。
これが個人的にはとても刺さったよね。ともすると眠っちゃうような反復的かつ地味なフューネラルに、その世界観を壊すこと無く緩急を導入することに成功している。
9分から20分台(それが3曲収録)という比較的長い尺でも一つの曲として飽きずに聴けるんだからなかなかどうしてさすがです。
途方に暮れたような静寂のパートや妙にお経めいた朗々とした不気味な歌唱法など、あくまでも伝統的なフューネラルスタイルも大切にしつつ、自分たちの音を確立しています。変な表現ですが、カラフルなフューネラルドゥームとでもいいましょうか。

大変気に入りました。
元Deafheaven云々気にせずすばらしいメタルだと思います。
フューネラル好きはぜひどうぞ。ドゥームは聴けるが、フューネラルはきつい、という諸兄も安心してどうぞ。

2013年12月30日月曜日

Seven Sisters of Sleep/Opium Morals

アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスのスラッジバンドの2ndアルバム。
2013年にA389 Recordingsからリリースされた。
知らないバンドだったけどなんだか評判よいので買ってみた。

なんといってもバンド名が格好いいね、なんか由来があるのかな?
妙に手作り感のあるオカルトなアートワークが独特の味があって不気味すな。
Opiumというのは阿片という意味らしい。うーん、スラッジっぽいね。

うーん、恐い。スラッジメタルってドゥームメタルに比べるとラフで粗野で、端的に言って怖い感じするんだよね。髪の毛も短いよね。(勝手に髪が短いのはハードコアで長いのがメタルだと思ってる。ただスラッジはハードコア由来だと思ってたけど、それは違うって読んだことあるし、どうなんだろ?)

さて肝心のとの方はというとこれはまた黒いスラッジメタルですね。
ボーカルはデス声ではなくてハードコアっぽいシャウトでEyehatetgodのそれにちょっと似通ったところがある。こっちのが低い分ドスが利いているかな。
ギターとベースはひたすら重い、低音を強調した音作りで、煙ったくて埃っぽいデザートなイメージ。そいつらが這うようなリフを奏でまくる。例えばギターソロや高音域を使った飛び道具的な演奏は皆無で、ひたすら遅い。たまに叩き付けるようにガンガンやったりするとそれがべらぼうに格好いい。私の大好きなフィードバックノイズもやりすぎず適度に入っていて良いね。
ドラムは乾いた音でメタルのそれみたいに重くないのが、前述の弦楽器陣と良い対比になっていると思う。中音域で軽いとは言わないのだが、跳ねるように叩くものだから、曲にメリハリがついてだいぶドラムのおかげで聴きやすくなっているところがあると思う。
たまーに疾走するパートが挿入されていたりで良い。
曲が2分台から4分台というのも聴きやすくて良いす。全体的に見ると兎に角不吉な感じなんだけど、不思議とくどくない作りになっているから、最後までうぉ〜〜っという感じで楽しく聴けちゃう。厭世的な抑鬱感を程よく攻撃性に昇華させたような音楽性でもって兎に角攻撃的なんだけど、どこかしら憂鬱な感じがしてとてもすばらしい。ちょっとGazaにも似ている。Gazaは解散しちゃったし、個人的には今後の活動にも期待大です。

というわけでこりゃあ評判が良いのも頷ける出来!
悪〜いスラッジメタルを聴きたかったらこのCDを買えば問題ないと思うよ。オススメ。

2013年12月29日日曜日

Cult of Luna/Vertikal

北欧はスウェーデンの7人組ポストメタルバンドの6thアルバム。
2013年にDensity Recordsからリリースされた。

私はこのアルバムの後にリリースされた「Vertikal 2」を始めに買って、その内容の良さに感動。順番が逆になってしまったが、この降るアルバムを購入した次第。

Cult of Lunaは1998年にスウェーデンで結成されたポストメタルバンドで 、リリースする作品には結構強いメッセージ性があるよう。今作は1927年に制作されたフリッツ・ラング監督作「メトロポリス」という映画に強く影響を受けているそうだ。
私はこの映画は見たことが無いから一体どのくらいこのアルバムに影響を与えているのかということをここで述べることは出来ないんだけど。
映画の動画をぺたっと。私も全部見てないけど、これって本編全部?

さて音の方はというと浮遊感のあるドゥームメタルといったイメージでしょうか。
ただしポストメタルというジャンルにカテゴライズされていることもあり、真性のドゥームメタルにある閉塞感や陰湿な攻撃性は希薄。音はヘヴィだしボーカルのスクリームには迫力があり、暴力性という意味では頷かされるものの、陰惨さは皆無。
ヘヴィである一方キーボードをかなり大胆に導入しており、独特の浮遊間を出すことに成功しているようだ。ポストメタルというのは勝手なイメージでは空間的な広がりのある感じ。
兎に角尺長い曲が多く、演奏スタイルも反復の多様や長い間の取り方など、かなり贅沢に使っているよう。とくにつま弾かれるようなギターの音はどうにも功にも北欧の厳しい冬をイメージさせるような冷たさがあってすばらしい。
反響やフィードバックノイズをキーボードに合わせて効果的に使っており、ボーカル特にスクリームはあくまでも1種類の楽器というような使い方をされていて、ここぞというところに登場しては曲を盛り上げる。随所に挿入されるクリーンボーカルはこらまた何とも言えない疲れたような途方に暮れたようなテンションの低さで私のような男には説得力抜群。
全体的に何とも言えないメランコリックさが曲を覆い、五月蝿いバンドアンサンブルなのに、雪が降り積もっていくような寂寞とした感じが私のつぼにはイチイチ入りまくりで困ります。大仰と言っても良いドラマティカルな感じも、派手さの無い音作りで非常に好感が持てる。
お前を殺してやるず、という排他的なメタルも良いけど、ただただひたすら沈み込むようなメタルもやっぱりいいなあと思う。心にしみ込むメタルですよ。

兎に角全体を覆うものすごいような寂しさがすばらしい作品。
わびさびを好む日本人にはこの北欧からの荒涼とした音が以外にもマッチするのではなかろうか。
まあ聴いている人はとっくに聴いていると思うんだが、まだ聴いてない人がいたら手に取ってください。
個人的には18分の大作「Vicarious Redemption」が兎に角すばらしいですわ。

ミネット・ウォルターズ/遮断地区

イギリスの女性作家によるミステリー小説。
原題は「Acid Row」。
2014年版ミステリが読みたい!で第1位。このミステリーがすごい!2013の海外編で第2位だそうな。日本でとても受けがいいみたいだし買ってみた。

作者は帯によると英国犯罪小説界の女王と呼ばれているそうです。
本格ミステリー作家で結構な冊数が邦訳されているのだが、私はこの本で初めて。

イギリスのバシンデール団地は1950年代に低所得者向けの集合住宅として建設され、2001年現在ではまともな教育を受けていない低所得者の人々が済み、ドラッグと暴力が蔓延する掃き溜めのような場所になっている。無計画に増築された建造物は老朽化した迷宮のようになっており、地元の人間は立ち入りたがらない。

ソフィー・モリソンは公共の医療機関につとめる医師で治療のためバシンデール団地に出入りしていた。
ある夏の日バシンデール団地に小児性愛者の親子が引っ越してきたという噂が流れる。折しも少女の失踪事件が発生し、団地の住民たちの緊張が爆発。小児性愛者の親子を排斥しようとデモが発生し、たまたま治療のために団地に入っていたソフィーは小児性愛者の親子にとらわれてしまう。

この本は500ページを超える大作だが、およそ一日の間に起きたことを描写している。
だから作品の密度が異常に濃い。普通の犯罪小説はだいたい一つの事件が始まって終わるまであう程度の長さのある時間が流れていくけど、この小説の事件はあっという間に終わりを迎える。常に事態が動いており、尋常でない緊張状態が間断なく続いていく。
これ読んでいる方はたまったものじゃない。常にクライマックスの映画を見せられているようなもので、どこで読むのをやめたら良いのかわからない。非常に疲れる訳である。
しかし本好きの皆様にはわかってもらえると思うが、そういう体験は読書好きにとってはたまらないものである。
犯罪者に閉じ込められた女医ソフィー、デモ(ほぼ暴動に発展した)の首謀者若き母親メラニー、出所したばかりのメラニーの夫ジミー、様々登場人物たちの場面が矢継ぎ早に入れ替わる。現在発生している事件の中継を、次々切り替わるカメラで見ているような緊張感がある。
物語の中心には犯罪者の親子がいて、いかにその2人の関係性が歪んでいるかということを丁寧に描写する。いわば異常な犯罪にいたる心的要因というものの謎解きをしていく訳なのだが、まさに薄い壁一枚を隔てた外界ではその親子を殺してやろうという暴動が起きている。
この本が面白いのは物語の中心に親子がいて、それが原因で巨大な災害のような暴動が発生する訳だが、それは誤解や無知に基づいて発生した非常に危ういものによって引き起こされているところ。なんていうか日本の仇討ちのような整合性(正当性ではない。)があるようで無い。
小さい子供の母親メラニーは子供を守りたいから小児性愛者をこの団地から追い出してくれと警察に向けてデモをするはずが、大衆というのは衆愚というか暴走していき最終的には制御不能の暴動に発展していってしまう。ここがすごい。伝言ゲームにアルコールとドラッグ、そして無知を加えるとどんな凄惨な事態に発展するのかという、一つの(最悪の)可能性の提示である。最悪の箱庭を用意し、不和の種をまいたらどんなカオスが産まれるのか、という観察実験のようでもある。
小石が巨大な雪崩に発展するように、気づいたときにはもう制御不能になっている。善悪の問題から発生したはずなのに、すでに善悪を判断することは難しくなっている。誰が悪いの?原因はたくさんあって確かに悪人もたくさんいるのだが、この本では彼らを罰してめでたしめでたしにはならない。清濁合わせ飲むような苦い結果もある。
とくにデモの首謀者メラニーの造形がすばらしくて、彼女は無知だし、粗野だし、アルコールも麻薬もたしなみ、子供の父親が誰なのかはわからないし、某巨大掲示板だったらDQNと呼ばれそうな若者なんだけど、善し悪しをべつにして彼女がどうして失敗して、それから家族のために何をしたのかというのは非常に面白かった。これはきっと女性にしかかけないんではないだろうかと思った。始末のつけ方が男性作家では無理なんだよね。

グーグルで「遮断地区」と検索すると「遮断地区 ネタバレ」と出てくるのだが、ネタバレはあまり意味が無い。読んだ人ならわかるのだが、この事件がどんな顛末を迎えるのかというのは冒頭にはっきり書いてあるんだよね。この本は間違いなく過程を楽しむ小説だと思う。
私はその過程が非常に面白いかった。もう読みたいような読みたくないようなで、ページをめくる手がどんどん早くなるような。
善悪スッキリ、結末はっきりというタイプのお話が好きな人には合わないだろうが、それ以外の人には文句なしにオススメの小説。年末年始のお休みにでも読んでみてほしい。

2013年12月22日日曜日

Bong-Ra/On Your Knees,Motherfucker

オランダのブレイクコアアーティストのEP。
2013年にリリースされた。CD版は日本のMurder Channelから。

Bong-Raは本名Jason Kohnenといって様々なプロジェクト、バンドに関わっているマルチなミュージシャン。その多彩さはブレイクコア、テクノの枠に収まらずなんとかの有名なメタルWikiであるMetallumにも彼のページがあるから驚きだよね。
http://www.metal-archives.com/artists/Jason_Köhnen/72581

今作は2003年にリリースされた彼の2ndアルバム「Bikini Bandits, Kill! Kill! Kill!」収録の楽曲のうち4曲をセルフリメイク、さらにそれらの楽曲の他アーティストのリミックスを3曲収録。さらにボーナストラックを1曲収録したちょっと変わった作り。
最近ブログで紹介しているThe Kilimanjaro Darkjazz EnsembleやThe Mount Fuji Doomjazz Corporationにハマっており、その首謀者の一人であるJason KohnenのメインプロジェクトであるBong-Raに興味を持ち、ちょうど発売されるという訳で買ってみた次第。

実は私、学生の頃にちょっとだけブレイクコア聴いていたんよね。といってもAphex TwinやSquarepusherなどの超有名所から入って、この前紹介したThe TeknoistやらSublight Record(調べてみたらもう無いんだね!)やら、日本だとRomz Recordsのアーティストなんかを本当にかじる程度聴いてたことがあったよ。そんなわけでちょっと懐かしいな、うえへへとまあ抵抗無く買った訳。

さて音の方はというと小賢しい細工なしのブレイクコアであった。
音がでかい。五月蝿い。
ブレイクコアと言ってもかなり広がりのあるジャンルだと思うんだけど、今作では兎に角基本にしっかりとした太いビートが存在して、そこからさらに細かいドラム音が際限なく配置されている。メロディ性は希薄でどちらかというとBGM的なシンセ音が豊富に配置されていて勢いが命。えげつないボーカルやSEが飛び道具的に配置されている。
明らかにビートが中心の音楽なんだが、もはやメタルといってもいい過剰さでもってドラムの音数が半端無い。これだと明らかに過多の状態になり結果五月蝿いのに起伏がないという残念なことになる危険性もあるのだが、洪水のような音楽の中でも基本となる太いビートがあって、それが非常に気持ちいいんだよね。
はっきり言ってIQ低めの音楽なんだけど(もちろんけなしている訳ではないです。)、所謂IDM(いまでもこんな言葉使うのかな?滑稽だったら申し訳ないのだが)に分類されるアーティストの中には凝りに凝った結果インテリジェンスの壁を越えて抽象的な前衛芸術に到達してしまった人たちも多いと思うのだけど(個人的にはもちろん好きな人たちもいる。)、Bong-Raはそうじゃないんだよね。一言で言うと踊れるブレイクコア。出不精の私が言うのもなんだけど、これライブハウスやクラブで大きい音量で聴いたら気持ちいいだろうね。
家でヘッドフォンで大音量で聴いているだけでも気持ちよくて体が動いちゃう。要するに楽しい音楽。曲展開や音作りは決して底なしに明るい訳じゃないんだけど、やっぱり音楽は面白いものだと感心する。

個人的にはやっぱり本人の手による楽曲の方が気に入ったかな。
如何せん曲が少ないのが難点か。オリジナルアルバムにも手を出してみようかな。
この過剰さはメタラー諸兄も結構気に入ってくれるんではなかろうか。
まあぜひ聴いてみてください。

ジョー・ネスボ/スノーマン

また出た北欧の警察小説!
という訳で新シリーズの紹介。
舞台はノルウェイ、首都オスロ。ノルウェイを舞台にした警察小説というと今まで紹介したことは無かったかな?初めてじゃないかなと思うのだが。
作者はジョー・ネスボ。ノルウェイの作家で経歴が一風変わっている。若い頃はサッカー選手を目指していたが怪我で別の道へ。大学卒業後に就職し、バンド活動を始める。その後オーストラリアに渡り書かれたのが、本作の主人公ハリー・ホーレ警部ものの第一弾。それが本国で出版されて小説家として歩みだした。今はノルウェイに在住。ちなみにバンド活動は今も続けているそうでバンド名は「Di Derre」。ボーカルとギター担当。
本作はハリー警部ものの7作目で、本国では10作が刊行されかのガラスの鍵賞も受賞。単行本の帯によるとマーティン・スコセッシ監督の手で映画かもされるようだ。

ノルウェイ王国の首都オスロ警察に勤めるハリー・ホーレ警部はある女性の失踪事件を契機に近年オスロ周辺での既婚女性の失踪事件の異常な多さに気がつく。調査を開始すると失踪が起きた現場の周辺では雪だるま(スノーマン)が目撃されていた。遅々として進まない捜査をあざ笑うように今度は雪だるまに見立てられた凄惨な死体が…ハリーはいつしかスノーマンと呼ばれるようになった連続殺人鬼を追いつめていく。

さて今作もご多分に漏れず、疲れた中年の男が主人公。
ただほかのシリーズに比べると少し若い印象がある。背の高いからだは痩せてはいるが筋肉質な体つきで、ほぼスキンヘッド直前の坊主頭という強面の警部。やはり家庭の問題とアルコール依存という個人的な問題を抱えていて、彼の生活の苦悩や疲れが事件と平行して丁寧に描写される。いわゆる組織の中のはぐれもので対人関係がヘタクソ。無愛想で頑固で独断専行。面白いのはアメリカで連続殺人鬼についての講習を受けていて、同僚の言葉を借りるならば連続殺人鬼に取り憑かれている。ノルウェイではそんな連続殺人なんて起こらないのに。ようするにちょっと浮いている困り者の警部。

そんな警部の前に連続殺人鬼が現れ、これに対峙することになるのだが、なんといってもスノーマンという呼び名の通り、雪だるまに見立てた殺し方が目を覆いたくなるくらい残虐で、死体をバラバラにするだけでは飽き足らず、雪だるまの頭にのせる、雪だるまにのせてさらに磔にするというちょっとした前衛芸術家のように殺しまくる。この殺人現場の描写が北欧の寒々しさとマッチしてほかに類の見ない独特な凄惨を生み出していることに成功している。曇り空の下、雪と血の強烈なコントラストとも言うべきか。恐ろしいのに凍り付いたような冷徹さがあって、血まみれなのにむせ返るような生々しさが妙に欠落しているような、そんな感じがあってともすると日本人の私からすると異界的な恐ろしさと魅力がある。

事件は如何にも怪しい人物が複数人登場し、徐々に進む捜査は二転三転していく。ミステリといっても警察小説だから、そこまで犯人はだれかな?という問いかけが主題ではないが、徐々に捜査の輪が狭まって真相が明らかになっていく過程がとてもスリリングで面白い。すべてが明らかになってなるほどそういうことだったのか、と納得するまでページをめくる手をどこで止めていいのやら、という楽しくも困った小説。

この小説のテーマの一つは家族、親子関係。ハリー警部は以前の恋人(ひょっとしたら結婚してたのかな?)と分かれているが、未練がある。恋人には子供がいてもちろんハリーとは血がつながっていないが、ハリーは彼のことをとても大事に思っていて、オレグという息子もハリーとは親子のような関係。
殺人鬼スノーマンはサイコパスらしく独自の思想体系と美学でもって殺人を繰り返す訳だが、そこには家族そして親子の関係が根底にある。実際読んでいただきたいのであまり突っ込んでは書かないが、本作によるとノルウェイの子供の20%は父親の子ではないそうだ。重い問題の清濁を余すこと無く書ききって、安易な独断を下さず、善し悪しは読者の判断にゆだねるような書き方は個人的に気に入った。
様々な登場人物が出てくるけど、脇役たちの状況もくどくない範囲でしっかりと書き込んでいるから、この家族というテーマが軽薄にならず、どっしりと問いかけてくる説得力がある。

というわけで非常に楽しめて読めた。あえて言うなら主人公がちょっと格好よく書かれすぎているかな?とも思ったけど、そういうものだと思えばあまり気にならない。
シリーズのほかの作品も邦訳していただきたいところ。