大英帝国スコットランド出身、カナダ在住の作家による短編小説。
長編「パラダイス・モーテル」が面白かったので読み終わらないうちに注文した。
私にとってはマコーマックの日本で読める本のうち2冊め。絶版なので古本で。
タイトルからするとミステリーっぽい響きもあるが、基本的にはマコーマックにしか書けないような不思議な短編が20収録されている。
前述の「パラダイス・モーテル」の物語の発端となった話も、より丁寧にページを割いた短編となって収録されている。
マコーマックの各小説は独特だ。どこにも見たことのない物語では全然ないが、こういう書き方、物語の組み立て方はあまり類を見ないような気がする。
幻想文学というのは曖昧な文体で書いちゃ駄目なんだ、というのは(このブログでも何回書いているけど)澁澤龍彦さんが書いていてたしかにそうだと思う。
マコーマックはシンプルで力強い筆致で描く物語はかなり現実離れしているという意味では幻想の世界に片足を突っ込んでいるとは言えるのだが、やはり幻想と言うには硬すぎる。しかしそれが現実を舞台にした小説家というと今度は曖昧すぎるのだ。
結果的に詩的ではあるが物語然としすぎているし、散文ほど散らかっていない。悪い言葉だがかなりどっちつかずの半端な世界観なのだ。状況は鮮明なのだが、どうにも信用出来ないという意味では、最高のほら話、つまり最高の物語と言えるのだがどうもこう居心地の悪さが残る。
この違和感がマコーマックの持ち味だろう。
あとがきでも書かれているが、物語の多くでかなり精算な描写がある。肉体的な痛みについて丁寧に、執拗と言っていいほど書いている。ただそれはあくまでも第三者的な観察眼というふうであり、露悪的なホラー要素は皆無である。まるで外科手術の様子を移したビデオを見ているような感じ、といえばある程度伝わるかも知れない。肉体的な痛みがあっても、どうも物語全体としてはケロリとしてこともなげに、曖昧なオチに向かって進んでいく。マコーマックはスコットランドのだいぶ貧しい地域で生まれ育ったらしい。あらっぽく、近代化されていなかったようなので生と死が渾然としているのは、彼にとってはむしろ普通のことだったのかも知れない。物語が人生のデフォルメや比喩だとすれば、喜びや悲しみとともにそこに肉体的な痛みや死が含まれることは当然のことではある。
物語が人生の比喩ならそこから含蓄を抜き出すのが読書の醍醐味と言える。マコーマックの作品に関してはその醍醐味が難解である。(私の読解力と人生経験の欠如は原因の一つに挙げられると思う。)確固たるものが拾い出せないのである。物語の水槽に手を浸してすっと取り上げても空っぽではないが、よくわからないものしか抜き出せない。この茫洋とした感じは夢に似ている。夢判断がいつの時代も人を引きつけるのは解釈にバリエーションがあるからだ。つまりよくわからないのが夢だ。夢から明快な印を読み解くのは難しい。夢物語といえばなんといっても漱石の夢十夜だろう。通じるところはあると思う。
ところで私はたいてい悪夢ばかり見る。悪夢と言っても追いかけられた挙げ句殺される、とかではなくて、なんとなく不安になるのだ。でも起きた頃にはその不安感を言葉でいいあわらすことが出来ない。マコーマックの小説はとらえどころがないが、私はなんとなく読んで非常に安心したのであった。
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