アメリカとカナダの混成バンドSUMACが来日するという。
SUMACは元ISISでHydra Head Recordsを運営するAaron Tuner、BaptistsのNick Yacyshyn、Russian Circlesで元BotchのBrian Cookによるスラッジメタルバンド。輝かしい歴史を持ち、知名度の高い3人が結成したスーパーグループと言える。昨年リリースしたアルバム「What One Becomes」は日本でも非常に好調だったのではないだろうか。私が普段目にしているレビューサイトやtwitterでもその評価は概ね好調(というか絶賛)だった。私もおっとり刀で購入し、これはすげえなと思ったもの。ただ感想を書く際に思ったのは何かに似てそうで似てないから結構描きにくい。重量級のスラッジバンドなら珍しくもなかろう。もはや一つのやり方として確立すらされていると思うが、このバンドはなんかちょっとこう違和感があるな、と思っていた。いわばまだ掴みきれないな、という消化不良を抱えていたわけで、来日と聞いてこれをひょっとしたら解明できるかも、と。
ツアー初日は小岩。Bush Bashは小さめのライブハウスである。平日の小岩はすでに雨も上がっていた。私が会場に着いたのは20時過ぎ。この日はFriendshipと黒電話666が日本からは出演。特に一人ハーシュノイズユニット黒電話666に関しては今年リリースした音源が非常にカッコよかったのでお目当の一つだったのだが、会場に着くともう本当に終盤のところしか見れなかった。
黒電話666
複雑に絡み合った様々なノイズが一つの太く巨大な奔流を形作り、生き物のように蠢いている。先般の音源ではただ垂れ流されるのではなく、きちんと曲にメリハリをつけた展開が印象的だったが、この日もそれは健在でうるささの中にもテンションがあり、私が最後耳にした終盤では離陸前のジェット機のように轟音がその頭をもたげ、テンションはどんどん張り詰めていき、不穏さと音量は次第にその勢力を強めていっていた。クライマックスではガラリと音の様相を変え(これはノイズでやるのは相当困難なことだろうと思うが、バッチリはまっていた)、一層ハードで攻撃的なノイズ地獄に展開していた。金属質の暗黒の太陽のように集まった人々をそのギラギラした光で強烈に照らしてる。ため息の出るようなノイズ。
これはきちんと全部また見なければならない。
SUMAC
続いてもうとりのSUMACである。ちなみにこの時点でもうひとはぎゅうぎゅう詰め。上背のあるメンバー3人は寡黙な感じでステージへ。Bush Bashはステージとフロアが同じ高さである。(そのため背が低い人はフロアの後ろの方だとよく見えないってことにもなるんだけど。)迫力が半端ない。黙々とセッティングを始めるのだが、ほとんどこの時点では音を出さない。転換はとてもスムーズ。黒電話666がバンド編成でないこともあるだろうが、それにしても機材と音のチェックは本当にあまり時間をかけていなかった。来日しているバンドの方々はニコニコされていることも多いが、SUMACの場合はドラムのNickは終始柔和な表情だった(メガネもよく似合う人でとてもハードコアバンドのメンバーとは思えない、タトゥーはあるけど)のに対し、AaronとBrianは別に無愛想というわけではないが、表情は読み取りにくく淡々とした印象。さっさとセッティングを終えてネック(金属でできているみたいに見えた)を両手で抱えて静かに待つBrian Cookの姿はその体躯もあって印象的だった。これからえらいものが見れるぞ…とテンションが上がる。
SUMACというとどうしても轟音という考えで思考が塗りつぶされているのだが、まずこれは間違いだったと思う。ひたすら低音に特化してただただすりつぶしていくようなスラッジとは明らかに異なる。これだけは覚えていただきたい。(私の印象です。)確かにミニマムな編成で高音を出せるはずのギターはほとんどそれらの音を出さないが、実際はただ低音をずらずら引いているわけではない。最小限のバンドなので役割は決まっていて、Aaronは低音以外にも色々な音やリフを駆使している。伸びやかなリフ、キャラキャラした音、ワウ(といっていいのか)を異常に噛ませためちゃくちゃ分厚いソロなど。ボーカルの登場頻度は低く、これは楽器の一つに過ぎない。まずはこの多彩さに驚くが、次に驚くのが曲である。曲!これが曲者だったのだとわかった。(気がしている、今は。)SUMACの曲は異常に複雑なのだ。反復の要素があるのだが、リフを中心にした短い(といっても長尺のスラッジをやるのでそれなりにはある)パックを単位として、それを次々に転換していく。だから耳で聞いたものに頭が追いつかないのだ!記憶と予想で次はこれだな〜と乗るわけだけど、SUMACはもう次のフェーズに写って全く違うことをしているのだもの!!もちろんアルバムの曲を今聞いてもそうなのだけど、強烈にライブでこれが意識されて、私は一人で「うお〜〜〜」とめっちゃ変な感じにテンションが上がってしまっていた。
この日は曲をやる、インプロゼーションめいたセッション、そこからスムーズに次の曲へ、という流れでこれでSUMACというバンドが少しわかる。ここでこのバンドの変幻自在(つまり尋常ではない引き出しの多さ)が明らかになり、素晴らしくヘヴィーなフリージャズのような面が強調されていた。Aaronのキャラキャラしたギターは後期khanateのようだった。かと思えば多彩なエフェクトでほぼハーシュノイズのような音も出していた。
驚くのはNickのドラミングで、この人が一番へんで一番すごいかも。前述の通り展開が変わる中でもこの人はどんどん叩き方を変えてくる。最近ハードコアを聴いていてテンポチェンジがただ速度の変化だろ〜?とくらいにたかをくくっていたがとんでもない。この人何者なの。リズムが非常にかっちりとしているのに変わり過ぎてこちらがリズムを取れない!この人のドラムに注目しているとただただすごくてすごく楽しい。
SUMACはそういった意味だと非常にプログレッシブだが、サイケデリックはない。というのも反復の要素が非常に特徴的で少ないし、音が明確に正確すぎて恍惚としたサイケデリアが形成されないのだ。だって強靭な筋肉とそこから生まれる正確性で曲が形成されているのだもの。知っての通り筋肉は重く飛ぶどころか水にも浮かびにくい。いわば非常ん現実的であり、聞き手に夢を見ることを許さない非情な音楽なのだ。こう書くと頭でっかちな音楽に思われそうだが、実際には違う。複雑な拍にわざと穴を設けてメリハリをつけているし(これは拍を変えているのか、拍に穴を開けているかどっちか、あるいは両方?)、音楽の音(リフ)と構成という根源的な質の高さ、一転して激情を迸らせるAaron、対照的に淡々と職人のように刻んでくるBrian、Nickの超人的ドラムと、聞きどころと、さらにライブなら見所満載で楽しいことこの上ない。
MC一切なしのライブが終わると会場は鳴り止まない拍手で包まれた。
すごかったな〜。私的にはSUMACというすごいバンドのすごさがちょっとわかったかなと思って非常に楽しかった。
来日ツアーはこれからなので迷っている人は是非足を運んで見て下さい。
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