早川書房が出版している雑誌SFマガジンの創刊700号を記念して組まれたアンソロジー。
収録作品と作者は以下の通り。(オフィシャルよりコピペ)
「遭難者」 アーサー・C・クラーク
「危険の報酬」 ロバート・シェクリイ
「夜明けとともに霧は沈み」 ジョージ・R・R・マーティン
「ホール・マン」 ラリイ・ニーヴン
「江戸の花」 ブルース・スターリング
「いっしょに生きよう」 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
「耳を澄まして」 イアン・マクドナルド
「対称(シンメトリー)」 グレッグ・イーガン
「孤独」 アーシュラ・K・ル・グィン
「ポータルズ・ノンストップ」 コニー・ウィリス
「小さき供物」 パオロ・バチガルピ
「息吹」 テッド・チャン
私はSFマガジン自体は手に取ったことのないSF好きの風上にも置けない不信心者なのだが、収録されている作家が魅力的なので買ってみた。ちなみに日本人の作家のみで組まれた【国内編】も発売されている。
編集した山岸真さんがあとがきで書いている通り、長い歴史を持つSFマガジンから優れた作品を抜粋する、というコンセプトではなく、今読んで面白い作品をなるべく時代が被らないように選んでいるとのこと。クラークから始まってイーガンやバチガルピなど最先端で活躍する作家まで、色々な支流がありつつ発展していく様々なSFをしかし一本の大きな流れとしてまとめあげている。こうやって見るとマーティン、グィンやチャンなど映像化されている作家もたくさんいるね。
個人的に気に入っているのはイアン・マクドナルド「耳を澄まして」。SFの醍醐味にスケールのでかさがあると思うのだけど、この作品はその大きなスケールを絶海の孤島のたった二人の関係に落とし込んでいる。世界の危機が少ない人数に文字通り集約されている。ある意味セカイ系なのだろうが、ひたすら静謐で個人的であり、SF的なガジェットがない中で粛々と物語が展開して行くのが面白い。少しずつ沸き立っているようにエンパス(一番優しい人間)が協力して少年を助けることで人間を次のステージに押し上げて行くという展開が熱い。
「神の水」でも破滅的な未来を書いた根暗ペシミストのパオロ・バチガルピの「小さき供物」は相変わらず不幸が予言されているが、一連のゲド戦記シリーズの作者アーシュラ・K・ル・グィンの「孤独」も結構人間の暗黒面を書いている。非常に原始的な世界のエキゾチックさに目が奪われるが、その世界のわけのわからなさを強調すること、血は繋がっているものの所属する社会(世界)が異なるために決して分かり合えない親娘の間の断絶がなんとも痛ましい。基本的に尊重しつつも確実に存在する先進的な文明側から遅れている文明に対する侮蔑が浮き彫りになっている。未来は常に良いものなら私たちは古代の人間から見れば幸福なのだろうし、実際寿命も延びているのだろうがじゃあ自分が幸せなのか?と考えると一体進歩が人間に何をもたらすのかが面白い。
私は物語に書かれている人間の動きを楽しむタイプの人間なのでSFというジャンルであっても基本的には同じ。そういった意味で上にあげた作品、それからそ以外の作品でも基本的に特異な状況でも人間の心と体の動きが丁寧に書かれているから非常に楽しめた。ただイーガンは別でこの人は先進的な科学技術を根拠に難解な話を書く。じゃあ人間がかけていないかというと全然そんなことはないのだが、このアンソロジーに収録されている「対称」に関しては特異な状況がフォーカスされていて主人公たちもそれをどう受け取っていいのかわからない、という混沌とした状況が極めて冷静な文体で書かれている。イーガンは日本でも人気がある作家の一人だが、こういったマニアックさというか、極めて科学的でハードなんだけど結構これどう受け取ったらいいのだ、というところが受けているのかもしれないなと思った。
そのジャンルに属する面白い作品を読めるという意味で奇を衒わないとても良いアンソロジー。手っ取り早くSFの面白いのを読みたい人は是非どうぞ。
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