ネオクラストというジャンルがある。
恥ずかしながら私はいくつか搔い摘んだだけでそれが一体どういったジャンルなのかははっきりせつめいすることができない。言い訳する訳ではないがまだこれからのシーンなのだと思う。そんなシーンをずっと追いかけて、いや応援しつつなんならそのシーンの発展に寄与しようというレーベルがある。AkihitoさんとYasuさんが運営する日本のLongLegsLongArms(通称3LA)がそれである。海外の音源を仕入れて売るにとどまらず自らレーベルとしても国内外(!)のネオクラスト音源を発表し続けている。そんな中でネオクラストの歴史の中で一つの里程標的なバンドであるスペインのIctusのメンバーが新しく始めたバンドがKhmerである。前述の3LAでもいくつも音源をリリースしているこのバンドがいよいよ来日ということで私もその初日に足を運んでみたのである。
金沢のThe Donorはメンバーの体調不良ということで出演がキャンセルとなったのが残念。ただ代わりに非常に良い出会いもあった。
場所は新宿の9spicesというライブハウス。初めて行ったのだけど横に広くて開放感があるし、客としてはステージがとても見やすい。奇麗だし良いところでした。今回なんとライブハウスのご好意もあってツードリンク代のみという破格のお値段で見れた。ありがとうございます。
いつも通り押っ取り刀で駆けつけると(ライブハウスの道順案内を見ていながらご多分に漏れず道に迷った。)一番手Vertraftが始まったところ。
Vertraft
自らをTOKYO BLACK SIDE SOLUTION HARDCOREと称するハードコア。カオティックハードコアを通過して激情性を盛り込んだかなりブルータルなハードコア。がっつりタフなハードコアとは一線を画す内省的な陰鬱さを激しさに昇華させた印象。カオティック/激情の要素はあるのだが頭でっかちでにはならないあくまでも直感的なイメージで知的なポスト感でもったいぶる(ちょっと悪口に聴こえてしまうがポスト系も好きです)ような小細工はなし。ボーカルの人のMCはリスペクトにあふれていて良かった。
Gleamed
The Donorの代役を急遽つめることになったバンド。まず第一印象はメンバーが皆さん若い。ギタリストは本当大学のお兄ちゃんみたいな感じでおおおと思っていたら、鳴らす音の方はこの日一番ブルータルだったのではなかろうか。Agnostic Frontのカバーも演奏していた通りオールドスクールな先人たちへのリスペクトを感じさせる音楽スタイルで、キャッチーさ、コマーシャルさ(例えば分かりやすいモッシュパートなどもその範疇だろう)とは一切無縁で叩き付ける様な無骨なハードコア。高速と低速を極端に行ったり来たりするところはかなりパワーバイオレンスで、いわば伝統に則った最先端という感じだろうか。滅茶カッコいい。私はかなりやられてしまってカセットを購入。そろそろ私はカセットプレイヤーを買わないといけない。
Redsheer
3番手Redsheer。沁みた。別に奇を衒ってRedsheerは癒し系なんて言わないけどやはりこのバンドの音は不思議と心の琴線を揺らしまくる。枯れていることなんて全然なくてむしろ間合いに入ったら刺し違えて殺されそうな、絶命しているのに首だけで噛み付いてくる狂犬の様な、そんな殺気に満ちた様相のあるバンドなのに不思議だ。2曲目の「Silece Will Burn」でもう完全に正気ではいられない。陰鬱なヘヴィネス、重量感とコード感のある美しいギターの音色を黒く塗りつぶしていくコールタールの様な粘性の音。それに浸食されるのはひたすら気持ちがよい。披露された新曲も静からの動、いやさ慟哭ででもって素晴らしく心が揺さぶられた。この時点では正直今日一番はまちがいなくRedsheerでしょと思ってしまった。そのくらい良かった。一つ難点としてはもっと曲数多かったら良かったな。
Sekien
極東の日本でネオクラストを鳴らすバンド。間違いなくこのジャンルだと日本の旗手に経つのがこちらのバンドでは無いでしょうか。正式な音源のリリースは未だ(正確にはこの日初めて発売開始された。)なのにもかかわらずその名は轟いている。これがマッチョ苦戦に伸びるおっそろしいハードコアだった。前のGleamedもブルータルだったがこちらはもっとクラストっぽい。ハードコアパンクをもっと正統進化させたような。ただこのバンドの勢いというのは常軌を逸していてひたすらまえへまえへ突進していく。徹頭徹尾呵責の無い疾走性で持って駆け抜けていく。ボーカルは野太い方向で滅茶カッコいい。一見孤高な音楽性で客もおいていきそうな取っ付きの悪さなのだが、これがフロアが盛り上がること半端無い。MCもないし本当無愛想なんだけど、まさに曲で魅了するわけでフロアの盛り上がりは相当なものだった。あっつい。最後の曲?かなコーラスが本当高揚感やばくてフロアもさらに点火した。
Prize of Rust
「錆賞」というバンド名は皮肉が利いていてカッコいい。「Regret&Progress」を掲げる東京のハードコアパンクバンド。ごりごり感と叙情性をあくまでもハードコアのフォーマットで表現するバンドだと思った。ツインボーカルで疾走するハードコアでちょっとPoison the Wellを彷彿とさせる。PtWのようにクリーンパートがある訳ではないのだが、同じように激しさとそれと相対する様な憂いの感情を曲に込めているのだ。ここら辺のバランス感覚は非常に良くてともすると悲しくなりすぎる曲を攻撃性の横溢したハードコアの形式で鳴らすものだから、うっぷんを晴らすにはもってこいの音楽になっている。ベースの弦が切れてSekienの人のベースに持ち替えて(ましたよね?)演奏してなんだかそれは卑怯なくらいカッコいいなと。
Khmer
ラストは勿論スペインネオクラスト総本山Khmer。これがね〜本当にね〜、前述の通りRedsheer越えるのはナインじゃないですか〜?くらいの気持ちで臨んだんですがそれが裏切られることに。この日一番だったのは恐らくあの場にいた皆さんも頷いてくれるのではなかろうか。
1曲目が始まった瞬間フロアが飲まれた。勿論期待感も大きかったし、前の素晴らしいバンドのかたがたが場を暖めていたということもあるのだろうが、やはりKhmerの実力がすごいのだろうと思う。ブラックメタルを巻き込んだ壮大な音楽性をクラストのシンプルなフォーマットで鳴らす、その音楽があっという間に客をみんな持ち上げた。点火されたフロアの気温が上がって人が飛んだ。そして1曲終わってKhmerのもう一つの魅力に気づいたよね。それは特にボーカルのMarioがそうなんだけど圧倒的に楽しそうに演奏すること。Marioの笑顔ったらないぜ!本当に!なんて楽しそうに歌うのだろうか。決して明るい音楽じゃないし演奏はシリアスなんだけど、とても楽しそうに演奏する。伸びやかに手が伸ばされる。それが見ている人たちの心臓をぐっと掴む。素晴らしいよね。人に伝播するポジティブさというのを目の当たりにして猛烈に感動した。ライブにほとんど行かないけどきっとこれがこの高揚感と一体感(この一体感の前には個々人の感動があると思うんだ)が、ライブの醍醐味の一つなのではないだろうかと。ほぼ1曲毎に「アリガトウ」というMarioそして拍手する私たち。突き上げる拳の何と楽しいことか。終始人が飛びまくり、跳ねまくり、そのほとんど皆が笑顔。アンコールも2回。あっという間に終わってしまった。
という訳で本当素晴らしかったライブでした。未だ迷っている人がいたら是非!!足を運んでみることをお勧めします。
さて楽しいライブが終わり、帰る道すがらレーベルが今回のツアーのために用意したブックレットを読んだ。敢えて紙のフォーマットで出したレーベルの意向もあるし(なにより売り物だってものもあるんだけど)あまり内容には触れないんだけど、行って、見て、楽しかった、次の外タレ、というライブにならないようにしたいという3LAの思い入れがビシビシ感じられた。その内容はメンバーへのインタビューを盛り込んでKhmerが一体その音楽を通して何を考え、そして伝えたいのか、ということにも目を向けてほしい、そういうことだと私は思った。実はライブの途中でもMarioが「自然はとても大切だ。私たちは自然を破壊している。それは遠回しに自分たちを害することになるんだよ」と言っていた。(私の英語理解力は破滅的なので間違っていたら申し訳ありません。)そんなシリアスな一面がMarioのインタビューを読むとよくわかる。3LAは他の音源でも丁寧な歌詞の和訳を付けてくれる。こちらももっと読んでみようと思う。
それからMarioがインタビューの中で影響を受けた音楽の一つにnine inch nails、そして影響を受けた本にセリーヌを挙げていた。双方ともに私がそれぞれのジャンルで一番すきなアーティストなのである。とても嬉しかった。
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