2015年6月21日日曜日

ウィリアム・ギブスン+ブルース・スターリング/ディファレンス・エンジン

アメリカの作家二人による合作SF。
1991年にアメリカで出版された。
復刊だったりで昨今また盛り上がりつつある(のかな?)サイバーパンクムーブメントの大立物二人による合作作品。

チャールズ・バベッジが差分機関(ディファレンス・エンジン)を完成させた19世紀イギリス、ロンドン。蒸気と歯車で動くコンピュータであるこのエンジンは時代を大きく変えた。キノトロープと呼ばれる動画も、国民番号制を管理する巨大なコンピュータもエンジンを使って産まれた。古生物学者のマロリーは蒸気者競争場で明らかに堅気ではない男女にとらわれた女性を助ける事で巨大な陰謀に巻き込まれていく…

所謂SFカテゴリ内の歴史改変ものってことになる。ぱっと思い浮かぶのはディックの「高い城の男」だが、それも含めて私はこのジャンル全く読んだ事がないと思う。
この本はどうも中々一筋縄でいかない類いの小説である。
まず蒸気機関が登場ってことでスチームパンクか!と思うところなんだが、上巻で解説も書いている故・伊藤計劃さんによるとスチームパンクじゃなくてサイバーパンクらしい。個人的にはサイバーパンクである事は分かったけど、同時にスチームパンクでもいいんじゃないか?って思うのだが、スチームパンク読んだ事無いし、ここら辺は詳しい人に任せよう。
で中身の方も(少なくともこの本では)歴史改変ものは現実から”どこ(誰)”が”どのように”変わっていくのかってところが面白さなのだが、イギリスを中心にアメリカ(合衆国ではなくてどうも北と南で分かれているようだ)、フランス、そして日本と実在の人物が数多く登場する。これらの人たちが歴史上何をしたのかってのを知らなくても楽しめるのだが、勿論知っている方がより楽しめる。だから下巻の末尾にはかなり長い辞典が乗っている。人物、出来事、単語、歴史、諸々の関連する事柄が説明されている。ここに関わってくるのだが、さらに実際の19世紀イギリス+改変された歴史の階級闘争、政治闘争が物語に深く関わってくる。色んな思惑の人たちが出てくる。さすがに単純に善人、悪人って分けにもいかないので中々ややこしい。
それから物語の運びも厄介で、色んな登場人物がいて主人公が変わるのは全然良いのだが、物語がある程度進むまで明確に主人公たちが何に向かって動いているか分かりにくい。これは私の頭の出来と読み込みが足りない所為と思うのだが、マロリーも偶然巻き込まれた感があるのでなにか陰謀だな…って所は分かるのだが果たしてゴールがどこにあるのかは判然としなかった。もっともそれ故にマロリーと次第に混沌としてくる町をさまよっている感、それから一気に物語が加速して冒険活劇めいてくる後半のカタルシス感は良かった。
読み進めて思ったのはこの本の主人公は人物たちではないのかなってことだ。要するに人間とその近くを持って描写される都市が主人公かと思ったのだが、都市ってよりはそれより大きい時間や言ってしまうと時代を描写する事に終始しているようだ。これは要するに違う世界そのものを書くのが主体の小説って事かなと思う。

決して分かりやすい話ではないのだが、物語の構成(というか仕掛け)が素晴らしいので最後まで是非読んでほしい作品。多くは語れないのだがサイバーパンクである。

ところでスターリングの本は前に紹介した「塵クジラの海」と本作以外は全部絶版になっているのだが、両作品とも一風変わった作品であるのはどういうことなんだろうな、と純粋に気になる。どちらもその性格故に転換を生み出した作品ってのは分かるんだけど、肝心のサイバーパンクはいつ読めるんかのおという気分でもあります。

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