日本は相模原のヒップホップ集団Simi LabのリーダーOMSBの2ndアルバム。
2015年にSummit/P-Vine Recordsからリリースされた。
2012年に1stソロアルバム「Mr. "All Bad" Jordan」、2014年にSImi Labの2ndアルバム「Page 2 : Mind Over Matter」、ビートメイカーとして発表した「OMBS」を経ての2ndソロアルバム。
1stの方は仕事が嫌すぎるとラップした彼もいまではSimi Labリーダー、特攻隊長、無職として完全に音楽に舵を取った八面六臂に活躍する生活の中で生き急ぐかのように発表されたこのアルバム。
今回は客演は豪華だが、見てもらえると分かるのだがSimi Labのラッパーの客演はなし。(Hi'Specはトラックメイカーとして参加。)チームの力は借りないというOMSBの意気込みが感じられる。
太々しく構えたジャケットが印象的だが、中身の真摯さが半端無い。
基本的には前作の延長線上にあるのだろうが、まずトラックのバリエーションの豊かさ二驚く。この進化っぷりはどうした事だ。タイトル曲の高らかにならされるホーンの清々しさ。アルバムにちりばめられた内省的な曲の煌めきつつも沈み込んでいく深さ。そしてヒップホップ特有の”悪さ”と”遊び”を存分に発揮した陽気さ。17曲はまさにおもちゃ箱の様な楽しさと乱雑さがそれでも「Think Good」という箱にぎっしりしかし不思議な整然さをもって収められている。
特に印象的なのは浮遊感のあるトラックのたゆたう様な気持ちよさ。1stでもその片鱗は見せていたが今作ではゆっくりしたその展開がかったるいのではなくかっこ良くなっていると思う。また歪んだギターソロも違和感なくトラックに取り込むそのバランス感覚の秀逸さも特筆すべきか。
彼流のリリックはさらに冴えを増し、詩人の域にたっしてないか。ヒップホップのリリックといえば(ちょっと嫌な言い方だが)自分語りだが、彼の場合はこのフォーマットを踏襲しつつ、悪自慢、他者批判にいかずむしろどんどんその心情内部をさらけ出すかの様な内省的なものになってきている。内省的なラッパーというとヒップホップのイメージからかけ離れているが、OMSBのリリックに込めるイメージは非常にポジティブだ。もはやアイデンティティといってもよいと思うハーフとして日本で生きるある種のアウトサイダーとしての視点、アンダーグラウンド出身故の音楽家としての悩み、ともすると愚痴になりがちな悩みを飲み込みつつポジティブに前進するリリック。そこに嘘くささは全くない。とくにタイトル曲「Think Good」に込められた決意表明感は素直にすげー。有言実行の覚悟を感じる。
中音〜低音のねっちこさのある独特のラップスタイルも、かすれて円熟したおちついた雰囲気のある声(#17)、酔っぱらった様に左右にふわふわした遊び心のあるもの(#4、後半の高速化が素晴らしい。「誕生日じゃないけどなんかくれ」はとても良いパンチラインだ。)とバリエーションを増して進化のほどが伺える。
1stを聴いた時にはその素直さ、真摯さに驚いたものだが軸がぶれずに相変わらず聴くものを楽しくしつつも、居住まいを正させる様な力を持った良いアルバム。こっちも真面目に聞かないと!って気持ちになる。
降神を感じさせる内省的な世界観を獲得しつつ前に前にでる力強さを感じられるクソカッコいいアルバム。「よく考えよう」は「良い方向に考えよう」という意味じゃないかと個人的には思う。私は日本のヒップホップを包括的に語れるほど熱心なリスナーではないが、こんな面白くもカッコよくかざらない真摯なアルバムがリリースされて嬉しい。純粋にカッコいい。非常にオススメの一枚。
0 件のコメント:
コメントを投稿