2015年2月8日日曜日

カート・ヴォネガット・ジュニア/猫のゆりかご

アメリカの作家によるSF小説。
(解説によると)本書はアングラな作家であった著者の出世作となった。
私はヴォネガット(ヴォガネットと間違えてしまう事が多々あるんだ、私だけ?)の熱心なファンである訳ではないが、爆笑問題の太田さんがなんどもお勧めするのを、彼らが作家をゲストにしたトーク番組で見ていたから「タイタンの妖女」と「スローターハウス5」を読んだ事がある。
今回何となく久しぶりに読んでみたくて買った次第だ。ちなみに「猫のゆりかご」とは英語でCat's Cradleでこれはあやとりの事だそうな。

作家のジョンはプエルトリコ沖に浮かぶサン・ロレンゾで「世界が週末を迎えた日」という本を執筆している。ジョンは元々はキリスト教徒であったが、サン・ロレンゾのみで流布している奇妙な宗教ボコノン教を今では信奉している。おそらく世界の人口は6人。ついこの間まで全く正常を保っていた世界に一体何があったのだろうか…

本書はなんと全部で127章に分かれている。といっても全部がぶちぶち切れているショートショートで構成されている訳ではないが、基本的に連続している物語の場面場面に小見出しが付けられている様な作りになっているから、普通に一遍の長編として読む事ができる。
これは真面目に書かれた本ではない。いわば寓話みたいなものであって、私も2冊しか読んだ事が無いから偉そうな事は言えないのだが、ヴォネガットの小説には色んな一風変わった人々が出てくるんだけど、特にこの本では前述の2冊よりは奇人変人度が強い人たちばかりがでてくる。といっても主人公のジョンことジョーナを始めみんなどこかしら抜けているので変な劇を見ている様な緩さとおかしさが全体を覆っている。
あらすじでも書いたがこの本は世界の終末について書かれている。普通のSFは世界が終末
を迎えた後の荒廃した世界か、もしく来るべく世界の終末をなんとか回避しようとする努力が書かれる事が多いが、残念ながら本書では世界はあっという間に破滅を迎えてしまうのである。奇人達が緊張感無く右往左往し、運命的な偶然でもって世界が破滅を迎え、残された奇人達がついにボコノン教を通して真理に到達する、のか?
完全に喜劇的な物語はしかし、その背後に人間の悲喜こもごもと愚かしさを描き、そんな人間達が自分たちの所属する世界を考え無しに滅ぼしてしまう危険性、そして人生の果てのない意味の無さと空虚さを描いている。喜劇じゃなかった悲劇でした。
どんな退屈な人生でも1冊の書物にするには長すぎるかもしれない。なので物語というのは多かれ少なかれ物事や人物をデフォルメするものだが、この物語はデフォルメが顕著でほぼ現実離れしているレベル。ヴォネガットは物語を喜劇調にしたのは何故かと考えると面白い。それは彼の優しさだったのかもしれない。「スローターハウス5」は実体験を元に描かれた作品であって、彼は確実に人間が引き起こす世界の終わりを戦場にかいま見たのかもしれない。
そう考えるとなんだかこののんきな登場人物達がそれこそ既に荒廃しきった廃墟となった地球に打ち立てられたずさんな書き割りの用で何か恐ろしくなってしまったのである。

穿ち過ぎかもしれないが中々恐い小説であった。一読しては単に変な物語なので興味ある人はそんなに来老いなく読んでみてほしいし、どんな感想を抱いたのか御聴きしたいところでもある。

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