今回はタイトルが守り人ではなくて旅人になっている。
女用心棒バルサではなくて新ヨゴ皇国の皇子チャグムが主人公。
新ヨゴ皇国の皇太子チャグムは隣国である海洋国家サンガルの王位継承の儀に国賓として招かれた。新ヨゴ皇国とは全く違う南の国家の情景に心奪われるチャグムであったが、サンガルでは国家レベルの陰謀が秘密裏に進行し、その手を王家に伸ばそうと侵略者達が虎視眈々と機会をうかがっていた。否応無しに争乱に巻き込まれるチャグムの運命はいかに…
1作目「精霊の守り人」では11歳、運命に翻弄されバルサに守られていた少年も、正式に王位継承権第一位の立場になりこの物語では14歳。皇子として隣国の国家行事にさんかする立派な王家の男になった。旅人と銘打たれた本は勿論守り人シリーズの中の物語ではあるが、バルサは登場せず基本は皇子チャグムの物語。バルサから護身術を習ったとはいえ14歳の少年であるチャグム。派手な武術で敵を打ち倒していく事は勿論できないが、殴り合いとは全く異なった戦いにその身を投じる事になる。
思えばバルサは肉体を使って危機を切り抜けていく分過酷ではあるが、単純ではあった。敵は殴れば良いし、逆に言えば殴れる奴が敵だった。しかし国家間の陰謀の場合、下っ端をいくら殴ろうが争いは止まらない訳で、国家が包括すると人間と文化すべてを”守る”必要がある分、戦いのスケールと責任の重圧は圧倒的に重くなってくる。
特にこの物語で強調されるのは、チャグムにかせられる選択である。サンガルは女性が強い国家でとにかく女性が活躍する話なのだが、年齢に化からわず全員が成熟した政治家であって国家のためにはたとえ自国に属する子供だろうが、国家の運営のためならば切り捨てる事に躊躇が無い。一方チャグムは個人的な体験のため一人でも何人であっても無辜の人間を切り捨てる事ができない。非効率で青臭いこだわりをどこまで貫けるかがチャグムの戦いになる。武器ではなくて殺意が人を殺すなら守るのもまた意思の力になる。つまりこれは信念の戦いってことになる。
いままでの個人的な物語から一気に国家間の物語に大幅にスケールアップしたにもかかわらず面白さはぶれないどころか、さらに新しい風を取り込んだ様な快作。変に壮大にせずに話の根幹自体はチャグムという主人公の目線で書いた事が面白さの要因の一つかも。
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