2014年に日本のBlack Smoker Recordsよりリリースされた。
このブログでも何回か紹介した事のある日本は神奈川のHip-Hop集団Simi LabのリーダーであるOMSBのソロアルバム。
1stアルバムは「Mr. "All Bad" Jordan」彼自身がマイクを取るラップ主体のアルバムだったが、今回は全10曲中彼がマイクを取るのは2曲のみで、さらにボーカルが入っている曲もその2曲のみ。OMSBはラッパーであると同時にトラックメイカーでもあり、実際Simi Labの2ndアルバムを見てもかなりのトラックが彼の手によるもの。ネット上でもフリーでミックス音源を公開したりとMCにとどまらない活動をしている。今回はそのトラックメイキングの腕を存分に振るったビートアルバムである。
ロックだろうがジャズだろうがボーカルレスのインスト音楽はそんなに珍しいものではない。勿論Hip-Hopもしかりで私も学生時代にジャズテイストのHip-Hop好きの友人に何枚かCDを借りて有名所を本当に何枚だけだが聴いたことがある。
Hip-Hopも勿論演奏(トラック)とボーカルが一体になって作る曲が主流だが、ロックに比べるとラップを活かすためにトラックに関してはあまり音の数が多くないのが特徴だと思う(にわかなもんで間違ってたら申し訳ないのだが。)。そこからラップを抜いてしまうというのだからこれは難易度が高そうでは無いだろうか?しかし当たり前の事だが音の数が多ければ曲が格好よくなる訳ではない。デザインとは引き算だと聞いたことがある。Hip-Hopのトラックはとてもかっこいい。音が少ない分研ぎすまされていてごまかしがきかない。その分粗が目立ってともすると退屈になってしまうだろうから難しい(と思っている)。
さてこのアルバム結論から言うととても格好いいビートアルバムになっている。
いくつか気になった事を書きます。
まずテクノとHip-Hopのビートアルバムの違い。音の数は少ないがかなりミニマル名このアルバム。所謂テクノ(ぴこぴこ全般的な意味合いで)とははっきり一線を画すが言葉にするとどう違うのかな?と疑問に思ったのでそこを書いてみる。
音的にはHip-Hopはやはり跳ねるようなリズムがある。このアルバム、全体的にははっきりいってバリバリフロアなアッパーチューンは皆無で、内省的とは言わないがかなり”聴かせる”音作りである。繊細な音使い、ゆったりとしたリズム。しかし眠たくなる様な音像では全くない。ビートはやたらと低音を強調した下品(これも好きですが。)なものではなく、どっしりとしてかつ無骨な印象。音は程よい大きさ。これがしかし耳からはいって胸にどすんと響く。そしてその音が良い連続で入ってくるものだから寝ている場合ではない。体が動く。力強さを打ちに秘めている。徹頭徹尾冷たい、もしくは攻撃的な(レイブ向けの)テクノとはここが違う。
もう一つは音の暖かみである。完全電子音由来のテクノ(今はもっと幅が広い事を承知で)と違いこのアルバムは(恐らく)サンプリング主体で作られているのではないか。デジタル処理を噛ませている(と思う)が、元の音の暖かみが見事に鮮度そのままに全く新しい曲を構成している。私はいま色んな音がデジタルで再現できるのにサンプリングという手法が生き残っているのを全く不遜な無知から疑問に思っていたのだが、このOMSBのアルバムはそんな思考を音で吹っ飛ばす様な作りになっている。なるほど、これがサンプリングか!と思わず感動。(実はOMSBさんが全くサンプリングなんて使わないで曲を作っていたら爆笑なんだけど、多分違うと思う。)
さて、こんな感じでつらつら書いてみたらが、サンプリングという伝統的なHip-Hopの手法で作られた心地よいビートアルバムかと思ったら、意外にもそうじゃない。いやそれだけじゃない。このアルバムかなり実験的でもあるのではないか。
レコードを張りが滑るノイズ音や、もっと不穏で直接的なノイズ、人の声を溶かして再構成した様な”ヤバい音”や”ヤバい作り方”がふんだんにちりばめられている。これは全くある種挑戦的な意図が見て取れる。伝統を踏襲しつつ一歩か二歩踏み込むその果敢さ、もしくは太々しさといっても良いんだがそれが全くもって面白い。ビートアルバムだからといってだらーと聴けないアルバムである。お洒落な店ではかからないかもだが、サウンドの背後にある殺気がたまらない。
人を選ぶアルバムではあるかもしれないが、ちょっとマイナーなHip-Hopが好きな人やテクノが好きな人はまずは聴いてみてはいかがでしょうか。私はとても気に入りました。
↓この曲はラップが入っているから取っ付きやすい。
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