宇宙生命SF傑作選というタイトル通り宇宙に飛び出した人類が様々な形態の未知の生命と触れ合う(物語によってはふれあい御頃ではないのだが…)小説を6編集めたもの。
中村さん編集のアンソロジーは「地球が静止する日」「影が行く」「千の脚を持つ男」を読んだ事がある。どれも大変面白かったし、テーマ的にもなんとも面白そうだったので購入した。
6編の内訳はこんな感じ。私はどの作家も多分初めて読んだと思う。
リチャード・マッケナ,「狩人よ故郷に帰れ」
ジェイムズ・H・シュミッツ,「おじいちゃん」
ポール・アンダースン,「キリエ」
ロバート・F・ヤング,「妖精の棲む樹」
ジャック・ヴァンス,「海への贈り物」
A・E・ヴァン・ヴォークト,「黒い破壊者」
「黒い破壊者」という短編の名が冠せられているのでなんとなく、敵対的な宇宙人と遭遇した人間がドンパチする話が満載なのかと思ったらその予想は見事に裏切られた。(激しくやり合う話もあるのでご安心ください。)
この本に収められているのは、フィクションであるから学術的というのは変かもしれないが、よく練られた未知の生命体とのファースト・コンタクトが架空の生物の生体を観察するように丁寧に書かれた小説である。どの生命も見た目だけでなくその指向が時に直接時に行動に反映されている。これもまた変な言い方だが、作者は自分が生み出した生物にこだわりと愛着とそして宇宙に生きる生命に対するリスペクトがあって、それが人類と触れた時にどういった行動に出るのか?ということを緻密に書いている。
後書きで中村さんが書いているが、「生態学的SF」というジャンルに害する作品が収められているのだ。(中村さんは宇宙の反対側にペンギン見に行くくらい動物の観察が好きらしい。)私もとんと知らなかったのだが、本来エコロジーというのは地球や環境に優しい、という意味ではなくて生物と環境の複雑な壮語作用を研究する学問「生態学」につけられた名称との事。(本書解説より引用。)だからこの本、図鑑を読んでいる様なわくわくがあります。
どの話も面白かったのが、特に気に入ったのがこの話。
「海への贈り物」
惑星の生命資源から鉱物を生成する仕事に従事する会社の海上に浮かぶ生活に必要な設備を備えた巨大な筏を舞台にした物語。ホラー的なイントロから、謎解き要素のある冒険小説風中盤、ひやりとさせるアクションシーンを挟みつつエコSFな終盤と起伏のある物語構成もすごいのだが、なんといっても未知の海洋生物「デカブラック」と人類が文字通り歩み寄っていく様がなんと言っても醍醐味。一介の技術者が必要に応じてというシチュエーションも物語的には盛り上がるし、なんといっても作者の経験を生かした潮の香り漂う海の男の世界の描写は生々しい。言葉どころか思考の体系が違う生き物とコンタクトを取る事の難しさ、そして異なる生物と理解し合う楽しさと喜びについて無骨な言葉で見事に書き出してSFは面白いと思わせてくれる素晴らしい短編。
醜い宇宙人が出現!討ち滅ぼせ!というタイプの小説が読みたい人にはお勧めできないが、真面目なSFが好きな方やエコロジーに興味のある方には是非読んでいただきたい1冊。
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