アメリカの作家によるハードボイルド/探偵小説。
マット・スカダーシリーズの12作目。1994年に発表された。
「倒錯の舞踏」が面白かったので、倒錯三部作を読んでみようと思ったら、まあ絶版になっていたので購入できる後の作品を買った次第。
ニューヨークで無免許の探偵を営むマット・スカダーは55歳になっていた。元娼婦のエレインと同棲しアルコールの誘惑は続くものの完全に断ち切っている。そんなスカダーの元にPR会社を営むヒルデブラントという男から依頼が舞い込む。ヒルデブラントは三十一人の会という会に所属している。その会は文字通り三十一人の男達で構成され、毎年決まった一日にのみ集まり夕飯をともにする。そしてその席で会員の内、鬼籍に入ったものの名前を読み上げるというものだ。この会は毎年開催され、会員の数が減り続け最後の一人となった時点で、最後の会員が新たに三十人を招集し、あたらしい章を始めるというのである。いわば会員達がお互いの死を監視する様な仕組みになっており、曰く古代バビロニア時代から連綿と続く由緒のある会であると言う。ヒルデブラントは自分達の章においては会員が不自然に死にすぎている気がすると言う。ヒルデブラント達の章が始まってから32年が経ち、死んだものの数は17人。確かに疑うべくも内状況での死者もいるがこの数値は確かに不自然に多すぎる。マット・スカダーは雲をつかむ様な挑むが…
アメリカ私立探偵作家クラブグランドマスター賞を受賞したローレンス・ブロックだが、今作では三十一人の会という謎めいた組織を登場させて、このアイディアだけでも相当面白い。確かに統計的に見て会員が死にすぎているのは確かなのだが、果たして本当に何者かが会員を殺し回っているのだろうか。会員の多くは成功したもの達だが、年を食って死への恐怖がいよいよ現実的になり妄想にかられているのでは、と思えなくもない。そこにマット・スカダーが挑んでいく訳だが、55歳になったスカダーはちょっと変わっており、「八百万の死にざま」時ほどにアルコールの誘惑にさらされている訳ではない。飲みたい気持ちはあるが、なんとか押さえることが出来ている。エレインとは不思議な関係だったがやっとこどうにか同棲を始めた。表向きは酒場のオーナーで無法者のミックとの男同士の関係も途切れることなく続いている。いわば齢55にして安定期に入ったスカダー。ヒリヒリする様な孤独を抱えて大都会ニューヨークの陰を生きる様なかつての姿は鳴りを潜めいよいよ飄々とした好々爺探偵が板につき始めた感がある。しかし人間というのは面白いもので、こうなると安定したなりの不安というのが頭をもたげだし、スカダーは難事件に挑みつつ自分も良い年だし、伴侶となったエレインは自分より稼いでいる。ここらで一念発起し、正式な免許を取った上でれっきとした探偵事務所を構えた方が良いのでは?と悩みだす。今まで気ままにやって来たけどおれって何か後に残る様なことしたっけ?と考えだしてしまうスカダー。中年の危機とはちょっと違うのだろうが、一人でやって来た分エレインと一緒にいることで誰かの評価というのが急に気になってしまったのかもしれない。悩みつつも地道に捜査を進めるスカダー。基本は足を使った聞き込み捜査で一歩ずつ真相に歩み寄っていく。今までやって来たことを繰り返していくその過程で自分の芯を再確認するわけだ。どこかとんでもない結末にたどり着く訳ではないが、自信を取り戻したスカダーがたどり着く真相は中々のもの。
小説としてはミステリーに舵を取ったもので、よく練られている。技巧的は文句無しだが、「倒錯の舞踏」のような陰惨さや「八百万の死にざま」のヒリヒリする孤独感は希薄。マット・スカダーその人のように円熟した出来とでも言うべきか。個人的にはもう少し暗い方が好みかな。
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