2014年2月8日土曜日
デヴィッド・J・スカウ編/シルヴァー・スクリーム
映画といえば銀幕、つまりSilver Screenだが、その単語のお尻の2文字をちょこっとかえたのが本作。
映画にまつわるホラー短編小説を集めたアンソロジー。アメリカでは1988年に発表されたものが、2013年に邦訳されて発売された。
ホラー映画といえばそれこそ星の数ほどの作品が撮られ世に発表されてきたが、映画にまつわるホラーってそんなにたくさんありましたっけ?私もそう思ったものですが、それがあったんですね。「悪魔のいけにえ」の監督トビー・フーバーによる気分を盛り上げる前口上からはじまって、編者のスカウによるいたずら心にあふれた解説で終わるまでなんと上下2冊の中に何と19編もの映画にまつわる短編が集められている。
私は中でもクライヴ・バーカーによる「セルロイドの息子」だけは同名の短編集で読んだことがあったのですが、その他の作品についてはこの本が初めて。とはいえ面子的にはかなり豪華でホラー小説好きなら一度は読んだことのある著者も多いはず。
前述のクライヴ・バーカーはスプラッターホラー界の巨匠。「始末屋ジャック」シリーズのF・ポール・ウィルソン。クトゥルーファンには御馴染みロバート・ブロック。映画かもされた「アイ・アム・レジェンド」のリチャード・マシスン。やはりクトゥルーを書いているラムジー・キャンベルなどなど。
面白いのは映画にまつわる恐怖譚といっても結構バリエーションがあること。恐怖映画そのものをテーマにしたものもあれば、映画館で起こる怪異について書いたもの、映画作成を書いたもの。恐ろしいクリーチャーが出てくるもの。幽霊が出てくるもの。悲しい殺人。復讐など。バリエーションがかなり豊かで、飽きずに楽しめるのはやはり、編者スカウの腕によるところが多いと思う。
いくつか私の気に入った短編を紹介。
長い間エキストラをしていた老人の恋を書いた、恐いというよりはちょっと切ないノスタルジーに満ちたロバート・ブロックの「女優魂」。
暇を持て余した学生が巻き込まれた事件を描いたジョー・R・ランズデールの「ミッドナイト・ホラー・ショウ」は兎に角後半の息もつけない展開が恐ろしい。ああこの後とんでもないことが起こるぞ〜という暗い予兆満々で破滅に突き進むラストがすばらしい。
平凡なカップルが選択した非日常を描いたジェイ・シェクリー「バーゲン・シネマ」は恐いんだけどなんだか悲しい。ちょっと彼らの気持ちもわかる。
AからZまでアルファベット順にスプラッタ/ホラー映画の名作をあげながら、(ある種)破滅的な未来を描いたダグラス・E・ウィンターの「危険な話、あるいはスプラッタ小辞典」はディストピアものの趣があってよい。
最後のスカウによる後書きもすばらしい。軽薄かつ遣り過ぎなアメリカンジョークの背後にはホラー映画とホラー小説へのあふれんばかりの愛が見え隠れしていて、彼の実は真摯な人柄が伺える。
たった一つ難点をあげるとすると尾ノ上浩司さんの解説で著者に関連する作品を紹介してくれているのだけど、結構廃盤になっている作品の多いこと!これはまあ仕方ないんだけどさ…みんなもっとホラー小説を読めば良いのにねえ。
上にあげた名前に覚えがある方はきっとホラー小説がお好きでしょうから、そういう方には是非この本を手に取っていただきたいと思います。
また上質なホラーの短編集を探している方にも文句なしにオススメ。
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