ページの枠が黄色いことに定評のあるハヤカワ・ミステリ。
元々は1956年に出版された都筑道夫さん編集の「幻想と怪奇」シリーズがあって、その後1975年から「幻想と怪奇」が本書の編集者によって3巻刊行(調べたら現在では絶版のよう。)された。その続き物が今作ということになるようだ。ちなみに紀田順一郎さんと荒俣宏さんの同じ題名の雑誌があったようだが、そちらとの関係は不明です。
全部で264ページに短編が17収められている。平均して16ページ弱だから、短編集といってもショートショートを読んでいるような感じで不思議な話がサクサクでてきて紙芝居を見ているような趣があった。
中でも私が個人的に気に入ったのが、
子供の妄想遊びを見事に怪談にしたゼナ・ヘンダースン「闇が遊びにやってきた」。その怪談への移行ぶりグラデーション状に連続していて大人の立場で余裕かましているとぞっとする恐さがある。アイテムの使い方とかちょっとキングに通じるところがあると思った。
世界に自分しかいないのでは?とたまに思えることがあるけどそのありがちな閃きを巧みに小説にしたリチャード・ウィルソン「ひとけのない道路」。さらにひと味加えて何ともいえない暖かい渋みを加えているところがすごい。
ウィリアム・テン「奇妙なテナント」は明らかに人間じゃない2人組?が存在しない13階を借りにくる話。途中までは喜劇の赴きすらあるが、最後の恐ろしさがよい。
ゴシックの正統を受け継ぐようなマンリー・ウェイド・ウェルマン「悪魔を侮るな」。地元の民が忌避する怪しい洋館にたどり着いたナチの傲慢な将軍が泊まるというのだからただ事ですむはずがない。
ローズマリー・ティンパリーの「レイチェルとサイモン」は何となく恐いというよりは悲しいような作品。淡々とした日常の描写が秀逸。空気感という感じでしょうか。
この間紹介した「シルヴァー・スクリーム」収録のロバート・ブロックの「女優魂」が「スクリーンの陰に」という題名で収録されていてちょっと面白かった。やっぱり名作みたい。この作品以外は全部初めて読む作品でした。
仁賀さんも後書きで書いているし、たしかほかの本でも読んだのだが、ホラーというのはやはりその性質上短編に向くという考え方があって、私も長編のホラーはつまらないとは全然思わないけど、やはりホラーの短編は抜群に面白い。
読んだ後に余韻に浸れるような感じがあると最高だし、ホラーの恐さというのは結構道の恐さに結びついていることが多いから、ツラツラと小説中の謎について思いを馳せるのも良い。
ホラーといっても刃物から血が滴り、内蔵が散乱するような露悪的な描写の作品は恐らく意図的に含まれていない。(何編かグロテスクな描写はありますが。)上品というのではないけど、すっと読めるのに質で勝負するような作品が収められているのでホラーマニアは勿論、短編小説好きの人も是非どうぞ。
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