デンマークはコペンハーゲン警察署地下に設置された、未解決となった事件のみを扱う部署特捜部Qの物語第三弾。
作者は強面ユッシ・エーズラ・オールソンで、この本は北欧5カ国の最も優れたミステリ小説に贈られる「銀の鍵賞」を2010年に受賞。
ちなみにこの本はハヤカワのポケットミステリといって文庫よりサイズがでかい。私は大抵通勤のときの読書に便利なので(安いし)文庫本を買うのだけれど、文庫化されるのが待てなくて買ってしまった次第。前作がとても面白かったので。(そこまででかくはなかったです。)
未解決事件のみを扱う部署の警部補カール・マークのもとにある日ボトルに入ったメッセージが届けられる。ボトルの中には助けを求めるメッセージが入っていた。どうやら誘拐され閉じ込められた子供が犯人の目を盗んで波間に託したらしい。
長年波に洗われ、引き上げられた後も長い間放置されてきたそのメッセージはしかし、劣化により内容の判別は困難だった。相変わらずやる気のでないカールだったが、謎が多いシリア系移民のアサドと変人ローセとその姉ユアサが解読に乗り出し、事件は思わぬ方向へ。
過去の作品と同様、事件を捜査するカールたちの視点に加えて、まさに今犯行をおかしつつある犯人の視点が入り交じって書かれている。
過去作の記事でも言及したが、とにかくこの作者頭のねじが完全に外れたサイコパスの人物造形がとても巧み。いずれのタイトルでも完全に逸脱している狂人たちを書いている訳なのだけど、どいつもこいつもある種の犯罪の天才であって、残忍な殺人を繰り返す一方で功名に日常生活を送っている。いわば社会にとけ込んだ獰猛な捕食者たちであって、カールたちは彼らの食事の痕跡を見つけることはできるけど、彼らの姿を見つけることがなかなかできない。ここがもどかしい反面、ハンターのように捕食者たちを追いつめるカールたちという構図がたまらなく面白い。
前作では犯人たちは超絶金持ち集団だったが、今回は趣を異にしておりなんと誘拐で生計を立てているという一匹狼。かなり丁寧にその生い立ちや人間性が描写されている。いかに彼が歪んでいったのか当過程がしめされているのだけど、同情するというよりは嫌悪感しかわかないような描写はさすがというべきか。
今回のお話は日常生活から孤立した宗教にのめり込む家族たちが被害者になるのだけれど、批判するというより冷静に描写するという感じで新鮮。宗教という枷によって(宗教というものが現代においては枷にしかならないという意味ではないです。)バラバラになった家族に対するカールのエピソードもうるっとさせて良い。
カールの相棒ハーディが半身不随になり、カール自身もトラウマを追った釘打ち機殺人事件も不気味な予感をはらませつつ少しずつ進展し、次回作も気になるところ。
過去作を読んだひとには文句なしでおすすめ。そうでない人はぜひ第1作目から読んでね。
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