イギリスの作家による長編小説。
作者ダグラス・アダムスはなんといっても映画化された「銀河ヒッチハイクガイド」シリーズが有名だと思う。かくいう私も大学生時代に何気なく買った冒頭の一冊が大変面白くてシリーズを一冊ずつ読み進めていった。とても楽しい経験だった。(「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」のwikiページがすごい充実していることに気づいたので後で読む。)私はそれっきりになってしまったのだが、と思って調べてみると元々寡作な人だったようで邦訳されていたのは上記シリーズくらいのものらしい。この「ダーク・ジェントリー」シリーズもNetflix(どうでも良いがもてたいならNetflixでみんなが見ている映像作品を見れ!と言われたことがあるがまだ入会すらしていない。)でドラマ化されたようで、おそらくその流れだろうか、このシリーズも邦訳されたのでワクワクしながら買った次第。
ケンブリッジ大学の卒業生リチャード・マグダフは真面目な学生ではなかったが、紆余曲折あった末にプログラマとして成功していた。ある日彼が務める会社の社長が撃ち殺され、家を荒らされた上に放火されるという事件が発生。リチャードは彼の死の周辺に不自然な邂逅を果たしており、警察に重要参考人としておわれることに。偶然にも大学時代の旧友でカンニングの罪で放校処分になり、今は私立探偵をしているダーク・ジェントリーに助けを求める。ダークは全体論という独自の理論で事件を解決すると豪語するが…。
ダグラス・アダムスがミステリーを書くのだから一筋縄で行くはずがなく、冒頭からイギリスらしい持って回った諧謔に飛んだ文体で、わけの分からない文章が綴られていく。キャラクターはどこか奇矯であるが、ほとんどみんな愛嬌があり、ウィットと皮肉(いかにもイギリスな感じ)、そしてユーモアに富んでいるため読みにくいというのはないのだが、どうにも後にも話しの中心というのがみえにくく、しばらくは座りが悪い。ミステリーというのは(大抵)一人もしくは複数人の殺人自体(状況と犯人(動機))が謎であって、それを解きほぐしていく物語だが、この物語に関しては体裁はミステリーで、たしかに主人公の雇用主の殺人も謎なのだが、その他にたくさんの謎が散りばめられておりその中の一つでしかない。夜空に煌めく星が星座を隠しているように、ダーク・ジェントリーがこの雑多な謎を一つの回答に導くのがこの本の醍醐味だろう。ジャンルの垣根を超えてもそういった意味では謎を解き明かすという意味で抜群のミステリーと言える。
全体的に軽いノリにくるまれているし、読後感も爽やかなのだが、そこは(あっさり地球をぶっ壊してこの上なく天蓋孤独になった男を主人公に据えたシリーズを描いた)筆者のことなのでこの作品でもやはり深淵のような孤独(しかも2種類の)を描いていて、よくよく考えてみるととても笑ってられない。さらっと書いてあまり言及しない、というのは一つの美学であり、読者としてはそこが楽しみだったりする。いわば物語が文字だけでなく、こちらの頭のなかでカチリと音を立てて完成するようで、とても爽快である。混沌とした遠景が一つの絵として捉えることができたように。そしてその絵の奇妙さに感動するように。
すべての読書好きな人におすすめの一冊。二作目も近々邦訳の上発売のことでとても楽しみ。
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