まずはこの動画を見てほしい。
演奏しているのはアメリカ合衆国のFull of Hellというバンドである。ハードコアの極北パワーバイオレンスにノイズを混ぜ込んだ激烈な音楽をやっている。そんなFull of Hellが新作「Trumpeting Ecstasy」のリリースに合わせて来日するという。それなら問答無用で行くしかない。Full of Hellは日本のノイズ神Merzbowとコラボレーションを行なったことがあり2014年にも来日経験があるのだが私はいっていないため今回見るのが初めてである。Full of Hellともコラボレーション作品をリリースしている(今年もさらに1作品リリース予定)厭世ノイズ・スラッジデュオThe Bodyも帯同するのだからさらに嬉しい限りである。
典型的なオタクなので弱い言葉がいくつかある。その一つが「限定版」だ。今回FoHの新作の限定版LPがあるというので勇んでいったのだが残念ながら売り切れ。開演前にT-シャツとピンズとパッチを購入。ボーカルの方が物販にいらっしゃいましたよ。とてもにこやかでした。
Friendship
一番手は日本から若い身空で刺青びっしり親不孝アウトローたちによる重低音ハードコア。今回の来日ツアーに帯同している。彼らが今年リリースした待望の1st「Haetred」も形式は異なるもののノイズを意識した強烈なハードコアをやっており、いわば一つの潮流としてのハードコア+ノイズに対する日本の回答なのであります。
いろんなイベントで目にする彼ら。いつもとにかくセットは少ないが音のデカさとタフに持続する正確性で強烈な個性を放つドラムに目が釘付けになってしまうので、今日はそこ以外をしっかり注目という気持ち。セルフブランディングもあってかとにかく強面、タフなバンドというイメージが強い(実際タフです)が轟音に負けないようによくよく聞いて見ると曲がよく練られていることに気がつく。ドラムに目が行きがちだが、ベースとギターは非常にうまくでかい音で空間と時間を区切っている。とにかくミュートの使い方がうまく、体を揺らせるでかいビートをバンドアンサンブル全体で生み出している。ただ速い、ただ遅いではなくきちんとつんのめるようなハードコアのリズムをものにしている。
そしてまさに豪腕という感じで、膂力でテンポをぶった切るように変えて行く。「ぎゅドン!」という感じで乗せたスピード一瞬で殺してくる。これにはやはり積み上げたアンプによる非常にボリュームの大きい音が効果的だと思う。
ボーカルはフロアに降りてきて暴れる。単にステージとその下で映える、というだけでなく放っておいたら何をするかわからない、2秒後にはこっちに体を低くして突っ込んでくるのでは(実際突っ込みます)という危機感もあって目が離せない。非常に華のあるボーカルだと思う。暴れすぎてマイクが物理的に断線。MC一切なし、客に拍手する隙すら与えない孤高のステージングだった。
Endzweck
続いては1999年から活動を続ける日本のハードコアバンド、Endzweck。ライブを見るのは初めてで実はこの日とても楽しみだった。ドラムの方はとにかくいろいろな国内外のハードコアのライブに関わっているようで、お名前を見ることがとても多い。ボーカルの方はバンドと並行してきちんと社会人やれるよ!という記事がついこの間話題になった。私も読ませていただいたが非常に面白く、また社会人として感銘を受けた。なんでもやろうと思えばできるのだ。
Friendshipから一点ライトをつけた明るいステージで丁寧なMCも間に挟んで行く。演奏するのは紛れもないハードコアで明確に良い意味で流行とははっきり距離を置いた堅実なもの。基本的に速度は早めでテンポチェンジも派手には行わない。速度を落として暴れさせるようなある種の”わかりやすさ”もなし。ひたすら突っ走る。途中でマイクから音が出ないトラブルもあったが、むしろ後ろで鳴っている演奏が聴けて私的には良かった。(その後すぐにマイクは復帰した。)終始叫んでいるボーカルと対をなすように演奏はとても饒舌。日本あるギターは両方とも勢いがあるが、表現力がとても豊かで厚みのあるリフに絡みつくような中音〜高音がよく出たトレモロや単音がとにかくかっこいい。じんわりと体の奥に火をつけるような”熱さ”を感じるのは曲に感情豊かに奏でられるメロディがあるからだろうか。
ボーカルの方のバンドから一歩出たインタビューも、明るいステージングも、背中を押すような曲も、動き回るメンバーも、全てが赤裸々だ。Friendshipはベールをうまく使うバンドだが(中身がないというわけでは断じてない)、Endzweckは包み隠さずに胸を開いて感情を出して行く。とてもかっこよかった。この日むしろ異質な音楽性だけど、それゆえひときわまっすぐ輝いていた。もう途中で絶対音源買って帰ろうと思った。(実際買って帰りました。)
Endon
続いてはやはり日本からハードコアとノイズをミックスして強烈に放射しているバンド、Endon。ただしこのバンドに関しては出自がノイズではっきりとしたバンドサウンドが前に出てきたのはConvergeのKurt Ballouとがっちり手を組んだ最新作「Through the Mirror」からではなかろうか。
1曲めてっきりとニューアルバムの冒頭を飾る「Nerve Rain」かと思ったら違う。とにかく音の分離が良くて、ノイズもきっちりギターと別れて(このバンドギターは重低音で潰すのではなく、ジャキジャキした艶のあるサウンドにしていることもある)綺麗に聞こえる。とてもバンドっぽいぞ、と驚く。そういえば昨今のライブのお供である強烈な白い光を放つプロジェクターがない。なになにバンドサウンドで勝負かと思いきや、曲が進むについれてノイズ成分を強めてくる。「Your Ghost is Dead」で速くノイジーな真骨頂はその頂点を迎え、そこから一点強烈に速度を落としたスラッジノイズ地獄へ。いろいろな楽曲を連続性を持って変遷して行く様はまさにノイズそのもので、このバンドの出自を意識させる。変幻自在だがどれも強烈にEndonであるのは、このバンドの本質が曲の型にあるわけではない、ということを露骨に証明していると思う。ボーカルの方は相変わらずひたすら感情的に叫んでいる。Endonは言葉に頼らないバンドなので(抽象的であるということにこだわりがあるのではと思うが)、きっとどこの国に行っても通じるだろうなと思う。もやの中を異世界の巨獣がが悠然と歩いているような様から、ノイズはそのままにギターが物悲しいアルペジオを奏でるアルバム終盤の流れに。ここで一回放棄した理性がまた違う形で戻ってくる。落差もあって非常にドラスティック(劇的)でドラマチックだ。ビリビリ震える空気の中で、感動で身も震えた。
The Body
続いてはアメリカからの刺客、The BodyがまずはFull of Hellのつゆ払いをば。The Bodyといえば底意地の悪い、とにかく厭世感に満ちたノイズスラッジが印象的だがこの日はなんとドラムもギターもなし。メンバーの二人がそれぞれノイズ機材にがっつり向き合う特別編成のライブ。普段ならギター/ボーカルのChip Kingもインパクトがあるが、頭をがっつり剃って(長髪のイメージだったものでびっくり)EmperorのロンTに身を包んだドラム担当のLee Bufordもヒゲのせいか陰気なフィリップ・アンセルモ的な危ない空気を放射していた。怖い!
おそらくその場でアナログ音源をいじって音を出しているのだと思うが、ぶちぶちいうノイズを垂れ流す。概ねビートが入っているため思った以上に聴きやすい。しかし重たいそれはダブやテクノという観念からあまりに距離がある陰鬱さ。シンプルかつミニマルなビートにゴロゴロ唸る重低音ノイズが乗る。その上にグリッチめいたノイズが飛び回る。音はでかいし、一部はドローン的に垂れ流されるのだが、音の種類と数は極限まで削られていて、きっちりとエレクトロ方面としての質が担保されている。不穏な人の声のサンプリングも非常に効果的でこれはめちゃかっこいいし、Chip Kingの巨体とは似つかわしくない高いボーカルもバッチリ頻度高めに登場するし、これは確かにThe Body。Endonもそうだが、バンドの本質がどこにあるのか、というのがはっきりしていると多少形を変えても全く軽薄な感じがしない。結構即興的な部分もあったのか、二人のメンバーの間に緊張感があり、それがビリビリ中間で帯電しているような不穏さを生んでいた。
Full of Hell
そしていよいよFull of Hell。ああついにこの日が来たのかとすでに感動と期待でステージを見上げる視線にも熱がこもる。
ボーカルのDylanが卓に据えられた機材のつまみをいじるとヒュンヒュンノイズが飛び回る。彼がマイクを握ってからほんの数秒、そこにマジで本当にわたし的には一番期待感のこもった至福の時があったと思う。まるで爆発したかのような推進力。止まらないブラスト、ギターとベースはかなり運指の激しい複雑なリフを奏でる。そしてそこに乗るボーカル。這いずり回るような低音から耳をつんざくような高音まで、バックの演奏御構い無しに寸断なく移行する。吠えまくる。まるでツインボーカルのように隙間がない。この人は高音と低音をまるで同時に出すように、高音から一転嘔吐するようなえげつない低音に連続性を持って変遷して吐き出してくる。Endonと違ってなんとなく言葉っぽいなとわかるのだが、あまりに早くて、そして異形すぎてこの人にしかわからない言葉を喋っている異星からやって来た人みたいだ。私たちと生きている速度が違うんじゃないのというズレ感。上背のあるからだを独特のやり方で(冒頭の動画を参照ください)動かしまくる。やばい。情報量が多すぎて全く脳が追いつかない。全て別々にすごいスピードで、止まったり爆速で動いたりを繰り返しているように思う。この日どのバンドも非常に極端なハードコアを演奏したが、明らかにFull of Hellが一番振り幅がでかい。Full of Hellはハードコアというよりはやはりパワーバイオレンスだ。それも今風の爆速と低速の間を全力でシャトルランするタイプの。パワーバイオレンスはその極端さからどうしても感情が研ぎ澄まされたピュアになってしまうのだけど、Full of Hellの場合はボーカルの多彩さとそれから何よりノイズに良い意味で”雑念”というか”逆巻く感情”を込めているので、さらに情報量が多く、そしてそれがバンドサウンドのニトロのように作用している。
途中ソロめいたパートもあったがドラムがブラストしまくりで、相当ややこしいことをできているのはこの人の豪腕があってこそなのかもしれない。ごまかしのきかない凄み。この時間が終わらないでくれーと思いつつ轟音に身をまかせる気持ちの良さ。私の言いたくて言えなかったことを全部言ってくれるような、心中の感情が体の外に出ていくような快感。
念願のFull of Hellはもちろん期待のはるか上方をいく凄まじさだったし、意表を突かれたThe Bodyもむしろすげーもん見れたという感じ。一方で相対する日本勢もどのバンドも一歩も引かない堂々たる演奏で本当出てくるバンドがどれもかっこよかった。ハードコア+ノイズでもこんなに多様なバンドがいて一堂に会してそれぞれ異なる音を鳴らすってすごい。主催の方々には本当ありがとうございますという気持ち。
終演後Chip KingからT-シャツを買ったらとっても丁寧で、フィットさせてもらうと「Good!」と言って指を立てて微笑んでくれたのだけど、(Full of Hellもそうだけど)この柔和な笑顔の背後にとてつもない厭世感と断崖絶壁のような感情が渦巻いているのかと思うとなんだかゾクゾクしますね!!長生きして地獄のような音楽を作り続けて欲しいです。
最後にFull of HellのDylan(開演前も終演後も物販にいてニコニコ対応してくれました)に「日本に来てくれてありがとう」と伝えることができて(伝わったか怪しいんだけど)とてもよかった。すごく距離がある極東の異国にはるばるこうやって来てくれるのは本当嬉しいです。
というわけで非常に良いライブでした。寝るとこの感動を忘れそうなのでとにかく今日のうちに書きたかった。
Full of Hellはもう一つ公演が公式にアナウンスされたので行ける人は是非!!!!
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