アメリカの作家による犯罪小説。
大学在学中にこの物語を書き上げ、卒業の日にエージェントに送付。デビューが決まり2013年に出版されるや名だたるミステリーに送られる文学賞を受賞。映画化も決定したという作品。私はtwitterでオススメされていたので購入して見た。
私の名前はゴーストマン。プロの銀行強盗で自分を含めて姿を消すのが仕事。変装のプロで様々な年齢の”誰か”に変身することができる。恋人がいなければ友達もいない。家族もいない。一つのところに留まらない。孤独でいることがプロの鉄則だからだ。よほどの強盗仕事でなければ引き受けない。そもそも普通の人は自分に連絡を取ることすら不可能だ。普段は古典の翻訳をやっている。そんな私に世界屈指のジャグマーカー(強盗仕掛け人)から仕事の依頼がくる。彼の仕事に問題が発生し、カジノから強奪した金を回収しろという。その金には時限爆弾がついており、時が来れば爆発しあっという間に当局に取り囲まれてしまう。通常なら受けない仕事だが、ジャグマーカーであるマーカスには大きい借りがあった。私、ゴーストマンはニュージャージー州に飛んだ。
銀行強盗は割りに合わない。だいたいの人がそう思っているだろうし、実際そうだろうと思う。とにかく警備が厳重であり、何かあればすぐに警察が押し寄せる。いわばそんな難攻不落な不可能に挑む犯罪者の話が今作。行き当たりばったりの低所得者、ジャンキーたちの犯罪とは違う、ゴーストマンを始め、ジャグマーカー(立案者)、ホイールマン(逃し屋、車の運転係)、ボックスマン(金庫をこじ開ける鍵師)、ボタンマン(力仕事担当)などその道のプロたちが綿密な計画を立て、強奪を実行する。性格上スピードが絶対的に求められるため、そのやり口は芸術的である。(フィクションならね)だから危なくもスタイリッシュという雰囲気があるわけで、そういう意味で非常に人を惹きつける小説である。ゴーストマンはその名の通り人々の記憶に残らない幽霊男。彼が一人で失敗しつつあるカジノ強奪計画を解決に導く。出てくるのは犯罪者たちばかりで金を巡って荒事の連続、銃も打たれれば人は死に、麻薬が出てくる。非常に派手な物語である。主人公が目立たないが実は凄腕というのは「暗殺者グレイマン」に似ている。あちらはスパイだったから、物語は壮大だったが、こちらはあくまでも強盗なのでスケールとしては街レベルだがそのぶん身近に感じられて良い。美女が出てくるわけでもなく、誰も信用しないゴーストまんが孤独に戦っていく。こいつは顔のない男なのだが、ところどころ個性と弱点が露出しており、そこが面白い。マーカスに借りを作るきっかけになった彼の過去の失敗についても同時進行で語れるわけでそういった意味では、ただただ無敵の男の活躍を指をくわえて見るというのではなくそこが良い。作者のホッブズはドナルド・E・ウェストレイクを敬愛していて彼の書いた「悪党パーカー」シリーズ(メル・ギブソン主演で映画化された「ペイバック」が有名か)の主人公、冷徹でタフな男パーカーをゴーストマンの手本としたとか。なるほど納得できる人物造形である。パーカーは女を必要とするが、ゴーストマンはもっと孤独で、もっと冷徹である。ただ結構こだわりもあれば、弱みもある(ただこの弱みは今作ではあまりマイナスに働かない。)という人間的な要素を入れたのは非常に良かった。
ただちょっとやっぱり強すぎるところが気になったかな。結構何回も窮地に陥るのだが、機転とハッタリで切り抜けるのはともかく、肉体的にも非常に強い。そもそもゴーストマンというのは逃し屋に属するはずで、そんな人が強くても良いのだが変装の名手という以外でもゴーストマンのゴーストマンたる所以がもうちょっと欲しかったところ。これだと変装のうまいボタンマンと変わらない。そういった意味ではチーム一丸となる過去編の方が好みだったかな。
非常によく練られた小説で、当時大学生だったホッブズは自分から遠い世界を描くためにならず者たちにバーでその半生を語ってもらったとか。やはり作者からしてプロな人だと思う。非常に残念ながら昨年28歳の若さで逝去されたそうで非常に残念なことだ。2作目は出版されることが決まっている。ワクワクする犯罪小説を読みたい人はどうぞ。
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