2014年7月6日日曜日

ドナルド・E・ウェストレイク/ホット・ロック

アメリカの作家による犯罪小説。
原題は「The Hot Rock」で1970年に発表され、日本では1972年に出版された。
天才的な犯罪プランナーが難攻不落の警備に守られた宝石を狙うという犯罪小説だが、その実は腹を抱えて笑えるくらい面白いコメディになっている。
まずは原子高志さんの表紙が良い。水色の背景に鉛筆で書いた様なコミカルかつ躍動感のある絵がシンプルに内容を示している。

天才的な犯罪プランナーのジョン・アーチボルド・ドートマンダーは刑務所で務めを負えた直後に相棒ケルプから新しい仕事を持ちかけられる。アフリカの某国の国宝であるどでかいエメラルドが今アメリカ国内を巡回中である。某国と敵対関係のある大使からの以来でその宝石を盗めというのだ。出所したてで金もないドートマンダーはこれを承諾、早速くせ者ぞろいの仲間を集めて宝石に挑むが…

という内容。
さて世に犯罪を中心においた小説というのは数あるもので、書き方も阻止しようとという警吏側から書いたものから、犯罪成功を企む犯罪者側から書いたものとバリエーションがある。しかし犯罪というのは原則的に法を犯すものであるから、自然とその内容も陰惨を極めてくるもの。策謀、暴力、流血、殺人とまあこう見た目を派手にするべく作者もその残虐性をエスカレートさせていく訳である。
この小説というのも犯罪者たちが5人も集まって宝石をかっさらおうというのだから、立派な犯罪小説であることに間違いない。しかし、コミカルな表紙が内容を的確に表現している通り、この小説残虐性が皆無である。無論銃器や暴力というのは出てくる訳だけど、それが人を過度に傷つけるというのは無い。主人公ドートマンダーは職人気質の古くさい男であるから、仕事にポリシーをもっている。はっきりと言葉に出す訳ではないが、手段を選ばないくせにあくまでも盗みを目的とし決して殺人はしない。制約のある詰め将棋みたいなもので、マシンガンは使うくせに皆殺しにしてお宝をいただこうとはしない。代わりにあの手この手を考えて、例えばヘリコプターで上空からせめて見たり、蒸気機関車を用意して廃線を突っ走り厳重に警備されている精神病院に突っ込んだりする。そして毎回失敗するのだ。宝石がチラチラと光っているのが見えるのに後一歩手が届かないのである。めげないドートマンダー一味は次の手を用意するべく奔走するのだ。スタイリッシュさはない。良いとしこいたおっさん達がうんうん唸りながらアイディアをひねり出し、東奔西走と言った感じでドタバタ走り回る訳だ。

何と言ってもドートマンダーと愉快な愉快な仲間達が面白い。色男の女たらし、運転好きのドライバーが初めてヘリコプターを運転する場面は笑った。鉄道模型好きのおじいちゃんの錠前師が蒸気機関車を楽しそうに運転する場面も微笑ましい。調子の良いうっかり者のケルプもよい味を出している。そんな変わり者の面々にため息をつきつつなんだかんだ毎回プランを考えるドートマンダーは中年のおっさんにしてはやはり一風変わった格好よさがある。私もこの一味に加わったら楽しいだろうな〜と思わせる、そんな大真面目にやっているのに子供の遊びじみた楽しさがある。

これは痛快な小説である。読む人を楽しませようとする作者の意図が感じられて嬉しいことこの上ない。あり得ない!と突っ込みを入れるのは野暮なものである。これはコメディであって、幕が上がれば観客はそのおかしさに手を叩き笑えばよろしい。一体リアルな小説のリアリティは誰が保証しているのか、とも思う。
面白い小説を読みたい!血が流れないで笑える奴!という人がいたら間違いなく気に入ることだろう。小説って面白い。

0 件のコメント:

コメントを投稿