デンマークを舞台にした警察小説も速いものでもう5作目。
毎回思うのだが表紙がお洒落だよね。
今回は新メンバーを加えた?特捜部Qが難事件に挑む。
15歳のマルコは自分の生まれたところがどこか分からない。父親はいるが血がつながっているかも分からない。今はデンマークに不法入国し、スリや物乞いで金を稼いでいる。一日の終わりにはバンがやって来てそれで家に帰るのだ。クランの家に。そこでは暴力的な家父長でマルコの叔父ゾーラが実権を握り、暴力で子供を支配していた。若い年齢の子供達はマルコ同様街に出て悪事を成し、金をゾーラに渡している。ある日マルコはゾーラが自分の父と自分を不具にする計画を立てていることを知り、クランを脱走。逃げ込んだ森の中でクランが埋めたと思わしき赤毛の死体を発見する。
一方コペンハーゲン警察本部地下室に居を構える特捜部Qは失踪した外務省上級参事官ヴィルヤム・スタークの捜査を開始する。彼は国家単位のODAプロジェクトの汚職に関わっていたらしい。難事件の捜査線上に現れたのは不法移民の少年マルコだった。カール・マークは複数の組織に追われるマルコを発見し、事件を解決できるのか。
というわけで今回はあらすじ通り、不法移民の少年マルコの争奪戦を犯罪組織、殺し屋、そして特捜部Qで繰り広げることになるちょっと今までとは変わったつくり。このマルコという奴は中々賢く、かつはしこいのでこいつがコペンハーゲンの町を歩いて、走って、自転車に乗って、川を泳いで、タクシーに乗って逃げまくる描写がふんだんに盛り込まれていて、そこが読みどころの一つ。舞台も町中、郊外、地下鉄、運河、そして実際にデンマークに存在する自治区(平然と大麻が街角で売られている様な場所が本当にあるのだという。)と一風変わった観光案内みたいになっていて面白い。アクション方面手を汗握るし、結構映画みたな情景が頭にぱっと浮かぶ感じ。(実際に映画の一作目の成績が好調で二作目が取られるらしい。)
相変わらずこの作者は嫌らしい的を描くのが上手で、今回は財界の大物、国家公務員といわゆる金に肥え太った醜い老人や中年であって、彼らの自己中心的な金の亡者っぷりに社会人の貴方はきっとイライラすること請け合いである。彼らと着たら自分たちの不正が上手く行かないものだから、その埋め合わせにさらに悪事に手を染めるのである。この意地汚さよ、ドートマンダーの美学などかけらも無いこの見苦しさよ。そして地位も名誉もある彼らが目を付けたのが、途上国に対するODAという訳。日本はODAが多いと言われるけど、訳者吉田薫さんによる後書きによるとデンマークはその日本に比べてもさらに予算に対するODAの比率が高い。”どこか遠くで、良いことに使われているはず”といわばまあ聖域のようになっている金をこの小悪党どもが横領し始めるのである。作者的にはODAシステムの不透明っぷりを批判するといういともあるように感じた。強烈な社会批判というのではなくあくまでも問題を事件に内包しつつ、上質なエンターテインメントとしてまとめあげ、それとなく問題提起する様なやり方は前作もそうだったが、読んでいるこちらとしてはちょうど良いレベル。
カール・マークら面々の描写は相変わらずで今回はパンク女ことローセの意外な一面が現れたりして良かった。アサドとの掛合やラクダ諺も健在。やはり個人的にはカールのぼやきが面白くて通勤途中に何度もにやにやしてしまった。反面個人的には一作目や二作目がもっていた前述のコミカルさと同居した圧倒的な黒さがちょっと弱かった気が。あれはあれで読むと疲れるくらいなのだが、このシリーズの魅力の一つだと思う。次回作以降に期待。
この一連のシリーズにはカール・マークの釘打ち機事件の隠された真相と、アサドの過去という大きな謎が横たわっている訳なのだが、今回は特に後者の謎がちょっと前進した感じ。全部で10作になるとどこかで読んだんだけど、もう半分かと思うと感慨深い。のこり5作も楽しみ。
特捜部Qのファンの方は手に取っていただいて全く問題ないかと。
映画の第一作目がこの冬に日本でも公開されるようだし、気になる人は是非一作目からどうぞ。
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