イギリスの作家によるミステリー小説。
2014年に東京創元社から出版された。
計らずともミネット・ウォルターズからイギリスミステリーが続く結果に。
フレッチャー一家はイギリスのとある田舎の町ヘプトンクラフに引っ越して来た。
その町には血の収穫祭と呼ばれる伝統的な儀式が未だ行われている閉鎖的な場所で一家は中々とけ込めないでいる。そんな中長男で10歳のトムは不思議な声と不気味な姿をもつ少女を見かけるが、周りの大人はそれを信じようとしない。
一方町に赴任して来た若い司祭ハリーは、閉じられていた教会を再開するが、様々な嫌がらせを受ける。
そんな中嵐の夜に教会の兵が崩壊、巻き込まれて壊れた墓の中から埋葬された子供の骨のかに2人の子供の死体が見つかる。
Amazonからお勧めされて作者の名前は知っていて気になっていたので新作が出たタイミングで買ってみた。今までの2冊は上下分冊だったけど今作は1冊にまとめられている。とはいえほぼ600ページというかなりのボリューム。
イニシャルしか書かれていない作者名からは分からないのだけど実は女性の方。私はてっきり男性だと思って読んでいたのだけど、途中で主人公の男女が出会うシーンを読んで、あれこれ女性じゃね?と思って調べたら女性でした。たまにこういうことあるよね。特に女性の作家が男性の描写を丁寧にしたりすると女性っぽいなと感じることがある。同じように男性作家が恋愛のことや女性の魅力的なポイントについて描写するところで、女性の読者は男っぽいな!となるのだろうね。
肝心な中身の方はというと…
禍々しい因習が残る排他的かつ閉鎖的な村社会。そこに紛れ込んだ都会人。威圧的な村長(実際には町の実力者だけど)。陰惨な過去の惨劇。見られている気配。不気味な声。不気味なフリークスの陰。町の伝統儀式が近づくにつれて高まる緊張感。
とミステリーというよりはB級ホラーのテンプレートを地でいく様な設定に驚かされる。これは恐い訳は無い。ただし描写が丁寧で派手さが無いので、下世話なスプラッター感は皆無である。誰かが殺された!犯人は誰だ!という雰囲気ではなくて、なんだか良く分からないけど何か良くないことが進行している、というその渦中に放り込まれた様な頼りなさが何と言ってもたまらない。中盤物語は走り出し、ミステリー的な決着を見せる作者の手腕は中々のもので、見事な話の作り方だと思う。一見人目を引く派手な設定に対しても丁寧に理由というか納得できる真相を用意しているところが非常にミステリー的でニクい。一見どう見ても化け物なんだが、それに向けて銃をぶっ放して解決するという非常に男性的な作りではなく、一歩引いてライトを当てて、これは〜〜ですね、と説明する様なイメージ。この観察、推論、説明というプロセスは実は一番真っ当な化け物退治何じゃないかと思った。恐れは人の目を見えにくくするとなれば、闇雲に打ち倒すよりはよほど勇気があるだろうと思う。
この記事の前で紹介したミネット・ウォルターズでもそうだったが、どんよりと曇った英国の空の下でなんともいえない緊張感をはらんだ人間関係がねっとりと書かれる様は、モダンなミステリーというよりは、日本の風土を反映した横溝正史の一連の金田一シリーズに通じるおどろおどろしさがあって、これは意外に日本人の読者にはすっと受け入れられるのではなかろうかと思った。
また物語の中心にある犯罪というか、謎の作り方がとても女性らしくなんともやるせないものになっている。読んだ方は分かると思うのだが、これは女性と子供達の話で男性は常に中心のその周辺部にたたされている。傍観者というのではなく、彼らなり日本そうしているのだが、意図的だかどうだかは分からないが、確信には到達できない。なぜかというと女性は人に向いているが、男性陣はそうではないだろうか。ここら辺はもっと読み込んでみると面白いかもしれない。そうえいばかの有名な「フランケンシュタイン」を書いたメアリ・シェリーは女性であった。
という訳で長いけど面白かった。
日本の因習因果系ミステリーが好きな人にはガッチリハマると思います。
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