フランス人作家によるフランスを舞台にした警察小説。
前作「シンドロームE」が面白かったので続編にあたる今作も買ってみた。
タイトルにもなっているGATACAはDNAを構成する塩基の頭文字をとったもの。
前作の事件後つきあいだしたリューシーとシャルコの2人だったが、リューシーの娘が殺害される事件を契機に破局。リューシーは警察を辞職し、シャルコは暴力犯罪対策本部から捜査の現場に戻った。ある日リューシーの娘を殺した殺人犯が収監されていた刑務所内で自殺を遂げた。現場には上下が逆さまに描かれた風景画が残されていた。独自に捜査を開始するリューシー。一方シャルコは霊長類研究センターでチンパンジーに殺されたらしい大学院生の捜査に乗り出す。一見関係のない2つの事件だが、実は裏で深いつながりがあることが徐々に判明。合流したリューシーとシャルコの前には人類のDNAに絡む巨大な謎が。
という内容。相変わらず派手な事件でスケールの大きさは前作以上か。地道な捜査で犯人を追いつめる、犯人と被害者の間にある深い因縁といった趣はやはり皆無で、殺人事件を発端に巨大な陰謀が徐々にその実態を見せていくというスタイル。基本フランスが舞台だが、まあ世界の裏側まではるばる足を伸ばしたりもして、兎に角デーハーな出来。とっても視覚的なあらすじが視覚的な書き方をされていて実際にハリウッドで本シリーズの映画化も決まったそうな。
よく練られた筋と長い中にも絶妙な緊迫感を持続させる作者の筆致はさすがの一言だが、実は私イマイチ乗り切れなかったのであった。
何が気に入らないかというとこれはもう主人公のキャラクターということになる。
今回は女性刑事リューシーは娘の死を切っ掛けに警察を辞職している。にっくき仇が不可解な死に方をして気になって捜査に乗り出すのはわかる。全然かまわない。独自に捜査するのも結構。だが警察手帳を偽造して、無許可の銃(はっきりした描写はないのだが、フランスで一般人に拳銃の所持が認められるってことはないよね。)を振り回すのはどうなのだ?一方的に警察を首になってというのならまだわかる。しかしつらい事情があったとはいえ自分でやめて、さらに昔の上司がいつでも帰ってこい、というのに勝手に警察を語って独自に捜査を進めるのは納得できない。どう考えても彼女のしていることは犯罪である。警察小説で主人公がバッジと銃を取り上げられた後、納得できずに独自に捜査を開始するというのは結構よくあるパターンだしそれはかまわないのだが、この本のリューシーの行動には全く同情できなかった。彼女は要するに好き勝手やりたいだけなのであった。そりゃあ警察は組織だから復帰したら、便利なこともある反面自分勝手な捜査は出来なくなる。上司に報告、連絡、許可を得て次の捜査に向かう訳だからかったるいことこの上ない。しかしそれが警察ってもんだろう。いや面倒くせえ。自分勝手にやるわ。それは警察官ではない。しかし彼女はあくまでも警察官として捜査を進める。
私立探偵フィリップ・マーロウや始末屋ジャック、サーファー探偵ブーン・ダニエルズだって警察じゃないけど捜査する。でも彼らはある種アウトサイダー流のやり方に乗っ取って捜査を進めているから格好よいのである。「俺は警察だ!」なんて無茶な捜査しない。
彼女の身勝手さにあきれてしまって、終始なんだかさめてしまった。残された娘のために!とか言うくせに全然家に帰らない。子供は母親に任せっきりであっさり昔の男の家に押し掛けて泊まる。自分が子供だったらそんな母親どう思うよ?(ここに関しては読んだ人の反論があるかもしれないが、事情も加味した上で私は母親失格だと思います。)
駄目人間なら私駄目ですよというのは仕方ないのだが、自分の中での決着が、とか娘のために、とか言い訳めいたモチベーションにもゲンナリ。
おまけにバディのシャルコも惚れた女のために上司に嘘をつくのは仕方ないにしても、独断専行で捜査を攪乱する始末。シャルコをはめようとする嫌な同僚が「自分が手柄を得ることしか考えてない」というのだが、まさにその通りで挙げ句に重要な参考人をむざむざ自殺させて反省のかけらもないサイコっぷり。
私が警察小説を読むのが好きなのは主人公が絶対正義の執行者という立場に属しているからである。陰惨な殺人事件があって、それの捜査に挑む主人公たち、しかしこの世の中一体悪と正義の二項ですっぱり割り切れるものであろうか?いや恐らく否であろう。だから正義の執行者である警察官である主人公たちには葛藤が生じるのであって、そこから彼らがどういう判断をするのか、というのが滅茶苦茶面白いのではないか。
この小説の2人はもう自分勝手にやっている訳で全く警察官じゃない訳である。変な言い方だが別に警察組織に実際に属しているか否か、なんてのは関係ないのである。彼らの生き方がビックリするほど自分本位で格好よくないのであった。
となんだか今までにないくらい悪口を並べ立てしまった。私は大抵何を食べても旨い!という幸福な人間なので、基本このブログでも好意的な感想を多く述べてきたが、まあそれでも納得できないという自分の気持ちを偽ることは出来ませんでした。
フォローする訳ではないが、話の筋と事件の真相に関しては文句なく人を引きつけるものがあると思いますので、上記主人公たちが「いやいや全然気にならんよ!」という人(そういう人だってたくさんいるだろうし、そう感じること自体は勿論私がどうこう言うところではございません。)は手に取ってくださいませ。
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