ニッチなジャンルで伝説というといささか大仰すぎるかもしれないが、語り継がれる名バンドや名作が確かにあって、今回紹介するのはそんな一枚。(2枚組なのだが。)
diSEMBOWELMENTは1989年にオーストラリアのメルボルンで結成され、1993年には解散している。その短い活動期間の中で2枚のデモと1枚のEP、アルバムをリリースしている。
中でも「Transcendence into the Peripheral」というアルバムはデス/ドゥーム界隈では有名な作品で、プログレッシブな展開からとても1993年にリリースされたとは信じられないと評価されていたり。
オリジナルのジャケット。デスメタルっぽくないロゴがおしゃれ。
当然のことながらミーハーな私としては気になっていたのだが、既に廃盤になっており何となくあきらめていたのだが、ふと思い立って調べると何のことはない、同じRelapse Recordsから2枚組のコンピレーションアルバムの一部として再販されていたのであった。
自分の間抜けさに悪態をつきつつ購入した次第。
2枚組でバンド名が冠されたこのアルバムは2005年にリリース。Disk1は名作と誉れ高い「Transcendence into the Peripheral」がフル収録。Disk2の1−3曲目がEPの「Dusk」から、4曲目がコンピレーションに収録された曲で、残りが「Mourning September」というデモの音源。ちなみに初回版はなんと3枚組だったそうな。私が持っているのは当然2枚組です。
さて曲の方はというと基本はデスメタル。それが速度をぎゅーっと落として、たまに加速するパートを入れるというスタイル。
ドラムは重々しくリズムを刻むが、疾走パートでは堰を切ったようにたすたす走り出して気持ちがよい。遅いパートでもででででっとバスを連打したりして面白い。
ベースはもこもこした低音でひたすら屋台骨を支えるタイプか。
ギターが面白く、片方は叩き潰したような低音でとにかく重く、またつぶれた音像で粒子が詰まっていて、輪郭がはっきりしない。こいつがとにかくリフを刻む様といったらまさにドゥームメタル。重い十字架を背負わされて一歩一歩進んでいくような絶望感がある。そこにもう一本のギターが絡んでくるのだが、こいつがまたくせ者で、クリーンとはいえないが歪みきっていない、妙に透明感のある音で不協和音のような旋律を奏でるのだから、重苦しいその他の演奏感と相まってさらに不安感をあおる。
ボーカルは低音デス声だが、わめくようなブラックメタルっぽさがあって、それが曲から一部のデスメタルが持つマッチョ感をなくし、絶望的な世界観を付与するのに一役買っている。
そう、このバンドの音はその内に圧倒的な陰鬱さ、絶望感をはらんでいる。
音楽性もちょっと似通うところがあるのだが、フューネラルドゥームの持つ圧倒的な抑鬱感に通じるところがある。
デスメタルといっても勇壮な部分は全くない。これはすごい。演奏はひたすら重いのに、外に開けたところが全くない。妙にすんだギターがすばらしく、真綿で首を絞められるような閉塞感。何かが絶対的に間違っているような不安感がある。
中でも引きずるようなギターリフに、落下していくような咆哮が被さってくるイントロから始まる14分を超える5曲目などは、ハウリングノイズ寸前のベース(だと思う。)も相まって一体自分はなんでこんな曲を聴いているのかわからなくなる。あ、これ悪夢みたいだな、と気づくのだが、悪夢というのは途中で目覚めることができないから恐ろしいもので。この音楽も途中でストップボタンを押させない魅力を備えている。
ともすれば単調になりがちな曲調にも、疾走パートやクリーンボーカルなどを効果的に配置することで飽きさせずに聞かせるように意外に細やかなセンスがキラリと光る。(ただしどこをとっても絶望感しかない。)
という訳名盤と歌われるのも納得の出来。
1993年発売というのはあまり意識する必要はないと思う。普遍的にすばらしい音楽が常に語り継がれるのであろう。このCDはその証明みたいなもので、すばらしい音楽に出会いたいあなたはぜひ手に取ってみるべきだ。
ただしとても暗いのでご注意。
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