タイトルの通り、イギリス一風変わった短編小説を集めたアンソロジー。
一番有名なのがディケンズで、あとは解説を読む限りどちらかというと埋もれた作家の短編が20話おさめられている。巻末には西崎さんの短編小説考も掲載。恥ずかしながら、ジェラルド・カーシュをのぞくとほとんど知らない作家だった。イギリスの短編小説は幽霊もののを何冊か読んだことあるけれど、当たり前だけど知らない作家なんてたくさんいるものだ。
この本はゴーストストーリーも収録されているけど、あくまでもくくりは短編小説なので話の種類は結構豊富。とはいえ、どこかしら奇妙だったり、不思議だったり、怖かったりする。
編集者と翻訳者は西崎憲さんという方で、翻訳のほかにご自身で本を書かれたり、音楽レーベルを主催しているとのこと。私は以前ジェラルド・カーシュの「瓶の中の手記」という短編集を読みいたく感動したことがあった。この本もAmazonでリコメンドされて、西崎さんのことを調べたら、「瓶の中の手記」を翻訳されていたのが西崎さんだということが分かったので、その人が選んだ短編ならさぞ面白かろうと買った次第です。
さすがに20編もあるので都度あらすじを書いていく訳にもいかないけれど、共通してどの話もやはりどこかしら非日常を書いている。お姫様を悪い魔法使いとドラゴンから守るお話もあれば、日々の生活に倦んだ少女が都会の生活にあこがれて今の生活を捨てようとするお話などなど。何編かは本当にほんわかする話だったり、幸せな今後を予感させるものもあるのだけれど、だいたいはやはり程度の差があれど、非日常が描かれていて、それは黒い亀裂のように物語を横断していて、いったいその亀裂の無効には何があるのだろうか、と思い不安にさせるお話。
最高にオチが効いている「後に残した少女」、これは最後の主人公の感情がいい。え?って思うけどよくよく読み返すと彼女の気持ちがわかる気がする。
また、カーシュの「豚の島の女王」は、孤島に突然成立した奇形のユートピアがちょっとした心の動きで壊れてしまうお話で、何回読んでもいい。
「コティヨン」はある館の仮装ダンスパーティーでの出来事を書いた作品。いかにもイギリスの趣があるゴーストストーリー。古典的な舞台装置がたまらない。
「写真」これは怖い!はっきりとした名言はないけど、病に苦しむ少年におこった悲劇。親の気持ちも分かるから切ないけど…
中でも特に良かったのが、ジーン・リースの「河の音」。これはたった5ページの短編で、どうもバカンスにどこか川のそばのコテージに泊まっている男女の会話でそのほとんどが構成されているのだけれど、妙に噛み合ない会話、そしてなにより不安に満ちた女性の独白が素晴らしい。恐いというより不安になる。
もしあたしが言葉にしたら、それは消えてくれるかもしれない。彼女は考える。たまにあんたはそれを言葉にできる—だいたいのところを—だから取り除くことができる—だいたいのところを。たまにあんたは自分を納得させることができる。今日の自分はこわがっていることを自覚している、と。あたしはつるつるした、きれいな、あんなふうな顔がこわい。ねずみの顔が、映画館で笑うときの笑い方がこわい。エスカレーターがこわい。人形の目がこわい。でもそういうこわさは言葉にならない。そのための言葉はまだ発明されてない。
本文から抜粋してみた。なんとも不安である。ただなぜ不安なのかが分からない。言葉自体は普通だけど、意味が分からないところだろうか。なんだか神経を病んでいるように思える。取り留めない思考がきりもみ状態になって狂気に落ちていくようだ。そしてさらに恐ろしいのがまさにこの淵が正気のすぐそばに口を開けているという点かもしれない。
変わったお話が読みたい人にお勧め。
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