2013年4月14日日曜日
ネレ・ノイハウス/深い疵
ドイツの女性作家による、ミステリ・警察小説、東京創元社より。
あとがきによると作者のネレ・ノイハウスさんは本国ではドイツミステリの女王と呼ばれているらしい。とはいっても今までに出版された本は4冊だから、その人気のほどがうかがえる。
面白いのは初めの2作は自費出版で発表したそうだ。その後人気に火がついて大手の出版社から再販、さらに3作目、4作目と書き続けていて、この本はその3作目。
4冊はいずれも同じ主人公によるドイツを舞台にしたシリーズもので、日本では次に4作目が翻訳・出版されるとのこと。
ドイツのケルクハイムで92歳の老人が射殺された。犯行現場には「16145」という謎の数字が残されていた。彼はナチスのホロコーストを生き残ったユダヤ人でアメリカ大統領の顧問を務めたことのある人物だった。しかし捜査が進んだ結果、彼がナチスの親衛隊であったことが判明する。
主席警部のオリヴァーと警部ピアは捜査にあたるが、そのうちに第2第3の殺人事件がおこる。双方ともにユダヤ人の老人で射殺され、現場には「16145」の文字。片方はやはり元親衛隊員であった。捜査を進めるうちに2人はある名家にかかわる陰惨な過去に直面することになる。
この話かなり複雑で、上記の殺人以外にもかなりのっぴきならない事態や事件が常に同時進行するため、かなりめまぐるしい。老人たちの殺人、犯人と思われる男周辺での殺人。若い建築家の抱える秘密。謎の解決がさらに新しい謎を呼び、疑惑や仮説だけが増えていく。
事件はある企業体を運営するセレブ一家に集約していくのだが、どいつもこいつも一筋縄ではいかない個性的な面々で面白くはあるのだけれど、結局はこの一家の内部のごたごた、つまり遺産を巡る醜い内輪もめなのかと思って少し冷めてしまったのだが、読み進めていくうちにもっと深ーい深淵がぽっかり事件と一家の背後に口をあけていることが示唆され、そこからは一気呵成に読んでしまった。被害者はナチの関係者だった。ナチは悪だ、悪だったし今になって殺されることもあるかもしれない。しかし彼らが実際何をしたのか。彼らはなぜユダヤ人として暮らしていたのか。
すべての謎が一つの真相に集約される様は見事としか言いようがない。読み終えたときはとんでもない話を読んでしまったと感動に震えたものである。
また、殺人事件に加えて警察内部での政治的な面倒事も描かれており、主人公2人の捜査は常に邪魔が入る。このイライラ感といったらない。要するに超一流のエンタメ小説なのだ。謎や焦燥感が強まるほど謎が解けた時のカタルシスも大きい。
また、警察小説というと主人公は大抵冴えないおじさんだったり、変り者だったり、組織のつまはじきものだったりするのだが、この本の主人公のオリヴァーはなんと貴族の生まれでかなり泰然としていてまずそこが新鮮だった。捜査を主導する立場なのだけれど、組織がうまく動くように気を配り、常に冷静沈着。もちろん犯罪を憎み、冷静な表情の下には熱い情熱を持っているのだけれど、駆け引きもするし、上司との政治的な立ち回りもこなす。ようするにどこからしら優雅なのだ。これはほかの警察小説にはあまりないな、と思った。相棒のピアは熱血漢で感情的な女性なのでコンビとしてもとても良い。またオリヴァーは結婚しているので、ピアとの関係にも面白味がある。(たとえば恋愛関係にあるとそれはそれで面白いが、少しありきたりすぎる感もあると思う。)
文句なしに面白い。超お勧め。
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