2013年4月7日日曜日
京極夏彦/西巷説百物語
京極夏彦さんによる、巷説百物語シリーズの最新刊。
このシリーズは昔から大好きで文庫化されるタイミングで買って読んでおります。
何気に結構息の長いシリーズでアニメやドラマにもなっていて、ちょこちょこ見てたりしてました。
小説は巷説百物語から始まって、「続」「後」「前」ときて今回の「西」で5作目ですね。
江戸時代上方で文具を扱う帳屋を営む林蔵は、表向きは大坂随一の版元を商う一方裏稼業の元締めを務める一文字屋仁蔵裏のもとで「どうにもならない」依頼を引き受ける仕事を請け負っていた。その口先、手練手管で目標を幻惑し依頼を解決する手腕から靄船(もやぶね)の林蔵と呼ばれた彼は同じく小悪党のお龍、柳次、文作らとともに、意趣返しや殺人事件の真相の究明などなど通常どこにも持ち込めないような因縁を解決する。手を変え品を変え、事件によって職業人柄を偽りながら、周到な罠のような仕掛けを作って受けた依頼は必ず果たす。そして仕掛けに欠かせない要素が妖怪である。
タイトル通り今回の舞台は上方で、主人公は御行の又市一味から靄舟の林蔵一味に変更。とはえい同じ江戸時代で同じ世界観を共有しています。
登場人物は変わったものの引き続き、「どうにもならない」依頼を裏稼業を生業とする小悪党たちが妖怪・幽霊・化け物をうまく使った「仕掛け」によって解決するという流れです。独立した7つのお話からなっているけど、全体的に大きな物語として連続しております。
京極さんのお話ということでこのシリーズにも妖怪、幽霊、化け物などのあやかしが重要なファクターとして登場します。もっとも実際にあやかしが登場するのではなく、彼らを林蔵一味がそれらを”演出”するのですね。
いうのは簡単ですが、林蔵をはじめとしていくら江戸時代の人たちだからと言って心底あやかしの存在を信じているわけではありません。ほとんどの人は懐疑的で、 もっとはっきりいうとあやかしなどいないとおもっているわけです。そこにさもいるかのようにあやかしを演出するのは結構な大仕事で、林蔵たちはそこに事件にもよりますが結構な仕掛けを作って臨むわけです。
このあやかしというのがなかなか面白くて、もちろん虚構の存在で林蔵たちも依頼の解決のために使う方便のようなものなんですけど、個々に性質や性格のようなものがあって、物語全体を象徴している存在になっています。いわば物語の中心に妖怪がいるのですが、基本的に謎があってそれを解決するスタイル、要するにミステリー形式の物語なので、中心というとやはり真犯人(もしくはと真相といってもいいかも)ということになります。妖怪は真犯人のそばにいるわけで時に真犯人こそが妖怪だったりするわけです。もちろん本当の妖怪ではないのですけど、妖怪の性質や要素を持っているわけです。といっても「誰の心にも妖怪の要素はあるんだ!気を付けようね!」といったありがちなロジックではなくて、つかみどころのないもやもやとした謎をはらんだ事件に妖怪の名前を付けることでわかりやすくして解決するわけです。
全体的に重くて暗い事件を扱っているにもかかわらず、からっとした明るい感じになっているのはキャラクター造詣によるのかと思いました。非常にしっかりとたったキャラクター達が、上方が舞台ということでこてこての関西弁をこれでもかこれでもかとしゃべりまくりまして、これがやはりリズムと勢いがあって読んでいると思わず口に出したくなるくらい気持ちがいいです。
また京極節というのか、独特の言葉づかいが結構難しかったりするのですが、文章それ自体にこだわりのある(たしかページをまたぐような文は一個もないはず。)京極さんなのでとても読みやすいのもいいですね。
前述のとおりそれぞれの物語は別個のものを扱っているのですが、全体に流れがあって特に最後の話は今までの巷説百物語のファンも歓喜するかと。個人的には最後の最後の終わり方がとっても恰好よくかつ爽やかで、おもわず「さすが」と唸ってしまったほどでした。
巷説百物語を読んだことがある人はここで書くまでもなく買っていると思いますが、とてもおすすめ。
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