2018年2月12日月曜日

STATE CRAFT/TO CELEBRATE THE FORLORN SEASONS

日本は東京のハードコアバンドの1stアルバム。2000年にGood Life Recordsingsからリリースされた。STATE CRAFTは1995年に結成されたバンドでデモやスプリットなど音源の数はかなりあるようだがアルバムはこの1枚のみ。いろいろなところで名前を聞くバンドで普通に新品で売っていたので買った次第。

「孤独な季節への祝福」と題された今作。ニュースクール・ハードコアの名作と聴いていたがアートワークはおそらく聖書のノアの洪水に題を取った宗教画で飾られているのが意外だった。再生してみると1曲め「Ecliptic Horizon」はなんともエピカルなインストで驚く。どうもハードコアではこういったキリスト教的なモチーフを好んで用いる動きがあったようだ。メンバーにはストレート・エッジの方が含まれるようだがおそらくクリスチャン・ハードコアではないと思う。
2曲めが始まるとザクザク刻んでくるメタリックなギターに力強く絞り出すようなボーカルが乗るハードコアだ。ガッチガチにソリッドにして一部の中音域を完全に振り捨てたようなベースが伝統的なハードコアスタイルを彷彿とさせる。ボーカルもやや憂いを含んだ日本独特のものなのだが、あくまでもタフで例えばnaiadのようにそこから激情方面に進んでいくような”迷い”が見られないのがよい。あちらはあちらで超格好いいが、こちらはあくまでもニュースクール・ハードコアだ。迷うより先にまず体を動かすのだ。演奏の方も巨大なハンマーをぶん回すかのような重量感で、ブリッジミュートを用いた緩急のあるリフでハードコア特有の”はずみ”のあるリズムを作っていく。疾走するところは走り(といっても基本激速はなくて中速よりやや速いくらい)、それから一点速度を落とし込んでいくブレイクダウン。要するにモッシーなハードコアでなるほど徹頭徹尾筋肉質でタフであるけど、同時に非常にメロディアスだ。全編これメロディアスと言っても良い。一時期隆盛を誇った売れ筋メタルコアのようにクリーンボーカルで激甘なサビをつけるのではもちろんなくて、演奏、具体的にはギターが非常にメロディアスなのだ。ギターが歌うタイプでやり方的にはブラック・メタルにおけるトレモロギターみたいな。もちろんこちらはトレモとは全然使わなくて、代わりにハードコアのパーツを分解してそれを一つずつ丹念に磨き上げていく。メロディに振りすぎると軟弱になってしまいがちなところをまさに職人技で持ってタフさを一切失わずに絶妙なバランスでメロディ性を混ぜ込んだ、まるで混ぜることで美しい刃紋を浮き上がらせる合金で作った日本刀のような鋭さ。結果的にモッシーだけど非常にエモーショナルなニュースクール・ハードコアが出来上がる。なるほどニュースクールといえばPoison the WellやShai Huludのような叙情派という言葉が思い浮かぶ。私は全然詳しくないけど例えば前述の2つのバンドに比べるとこのSTATE CRAFTはちょっと異なっていて面白い。メロディアスかつ短いギターソロなんかはこの間感想を書いたFinal Sacrificeみたいだが、あそこまでくどくはない感じ。すべてがコンパクトに纏められている、というのはあくまでもハードコアで勝負という気負いを感じる。

海外で生まれたハードコア・パンクという音楽が日本でジャパニーズ・ハードコアという独自のジャンルを生み出したように、ニュースクールの分野でもひょっとしたら日本独自のものが育っていったのかなと思う。例えばenvyが旗を振る激情方面がそうかと思っていたのだが、もっとこうピュアでタフなニュースクール方向の輝かしい未来もきっとあったのでは。(シーン自体はもちろん今もあります。)残念ながらSTATE CRAFTはこのアルバムを出した後活動を休止してしまった。残念。
6曲目「Forever Yours」からの流れが個人的には大変すきだ。新品で買えて幸運だった。非常に格好いい音源。おすすめ。

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