2018年2月25日日曜日

Dead Fader/Jenny 153

イギリスのブライトン出身、今はドイツのベルリンを拠点に活動するアーティストのフルアルバム。
2017年にParachute Recordsからリリースされた。
当初は2人組で活動していたが、今はJohn Cohenの一人ユニットになっている。
当初はインダストリアル・ビートを主体とした攻撃的な電子音楽をリリースしていたが、2014年に象徴的なアルバムを2枚同時リリース。今までの路線を踏襲した過激な「Scorched」。もう一方はビートが鳴りを潜めたアンビエントな雰囲気のある電子音で構成された「Blood Forest」。おそらくメンバーの数が減ったことにも要因があるのではと思う。
その後は2つの路線を明確に分けるのではなく、融合させる音楽スタイルにシフト。EPのリリースも多く、まさに試行錯誤で新しい音楽性を貪欲に模索していた。

今作ではそんな試行錯誤の果にリリースされた前作「Glass Underworld」の延長線上にあるものの、(おそらく)初めて人間の写真をジャケットに採用して今まで最も有機的な作品になっている。
当初は本当ガムガムしたドラム(すげー好き)が主役でむしろ後はどれだけ音を少なくしてビートを聞かせるかというコンセプトだったのだが、浮遊感に目覚めてそちらを追求しだしたのだが、やはりセンスがおかしくてうるせーノイズをしっかり残しておくという容赦の無さ。多幸感に包まれた浮遊感のその浮きかけた足を泥のようなノイズが引っ張るという、情緒もへったくれもないような気概がやはり最高である。3曲め「Raw Food」からの「FYI」はそんな芸風の真骨頂でありアルバム前半のクライマックス。2つの曲で微妙に相反する音の立ち位置を逆転させているのが面白い。
よくよく聞いてみると、低音にこだわりのない、空間的なエフェクトのかけられたフレーズもテクノの単純明快なミニマルさとは少し距離があり、また曲の展開も音の種類もテクノにしては複雑な方である。”異物の侵入”つまり違和感がいかに違和感なく曲に紛れ込むかという裏のテーマが曲作りの背後にあるのではと言うのは穿った見方だろうか。微妙に間延びしたような音、そして連続していながらゆっくりとその姿を変えていく音の使い方はどちらかと言うとわかりやすい攻撃性(ハーシュ)の牙を意図的に抜かれたノイズの手法か。不安定性のないノイズというのは巨大な水槽の向こうでゆっくりとその巨体を回転させる巨鯨をみるようになにか壮大である。心臓の鼓動がビートなら、その上に乗る生命活動は不安定。躍動する生命の芳醇さにまろやかなノイズでアプローチを掛けているとしたら、ジャケットに人の顔を配置するオーガニックさにも頷けるような気がした。

同時にリリースされた「Jenny 153 Remixes」ではJK Flesh、Roly Porter、Konx-Om-Paxの3人(このラインナップで大体当人の出す音がある程度想像できるのではないか。)がDead Faderの曲を分解し、再構築している。中でもやはりJustin先生のJK Fleshのリミックスは、バキバキ硬質なサウンドをミニマルにリフレインするというDead Faderにはありそうでなかった絶妙なバランスで凶悪な音の新しい可能性を提示しておりとても格好良い。そちらもぜひ合わせてどうぞ。
デジタルで購入したがやはりLPが欲しい。

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