2017年10月1日日曜日

Telefon Tel Aviv/Fahrenheit Fair Enough

アメリカ合衆国ルイジアナ州ニューオーリンズ出身で今はシカゴで活動している音楽ユニットの1tアルバム。2001年にHefty! Recordsからリリースされた。私が買ったのは
バンド結成15周年ということで2016年に日本のレーベルPlanchaから(日本だけで)再発されたもので、オリジナルの楽曲9曲に未発表音源8曲を追加したもの。
Telefon Tel Avivは1999年にJoshua EustisとCharles Cooperの二人で結成された。幾つか音源もリリースしたが2009年にCooperが亡くなり、残されたEustisはユニットを停止させたが、最近は活動を復活させた。
Telefon Tel Avivは恥ずかしながら全く知らなかったが、実は中の人がやっている音楽を私は2つ持っていて、一つはnine inch nailsのリミックス音源集「Things Fall Apart」でこちらでninの「Where is Everybody」のリミックスをTelefon Tel Avivが担当している。Joshua Eustisはninのライブメンバーでもあったのだ。(知らなかった。)もう一つはThe Dillinger Escape PlanのボーカリストGreg Puciatoが組んだバンドThe Black QueenでこちらではEustisは正式メンバーである。他にもToolのMaynardのプロジェクトPusciferと仕事をしているようだ。
実はこの間来日するというのでDommuneに出演して格好良かったので名盤とされる1stを買ったわけ。ライブはSold Outだったので行けなかった。

丁寧な解説を読むとどうもApex Twinに代表されるようなIDM(踊れない、もしくは踊りにくい作り込まれた電子音楽)に影響を受けた二人が宅録環境で作ったのがこのアルバムらしい。面白いのは録音した音源をマスタリングする過程で二人が想定していた音から結構乖離してしまったらしい。そんな齟齬がありつつ、この音源は名盤とされている。
さてIDMとったら曖昧な言葉なわけだけど結構ハードな音の作りのイメージはある。生音に接近したSquarepusherなんかも初期はとってもハードだ。このアルバムは2000年頃に作られているから、メンバーの二人としてもハードな音として作ったようだが、出来上がった音は決してそうではない。前述の通りの事情がどれくらい影響しているのか知らないが、多分マスタリングを掛ける前の音もハードなIDMとは一線を画すものだったのではあるまいか。このアルバムかなりゆったりしているがビートは鋭く、それこそハードだ。フリーキーなビートといってもいいが、Aphexの繰り出すドリルンベースと称される、ブレイクコアめいた手数の多いそれとは全く異なる。音の隙間が強烈に意識されており、ゆったりしていると言ってもいい。ただし繰り返すがビート自体は鋭く、解説にも書かれているとおり、冥界で音の数が少ないという意味ではヒップホップのそれに似ている部分があると思う。
元々メンバーのふたりともバンドをやっていたようで生音を載せることいて以降はなかったのだろうと思うが、生音(もしくは生音っぽい機械音)例えばアコギやピアノなどを大胆に上モノに使っている。どれも明快にメロディを奏でるというのではないが、淡々としているが温かみのある音で独特の余韻や残響が効果的に使用されている。そのオーガニックさを彩るのが若干の”ノイズ”成分でハーシュノイズの連続するドローン性はほぼない、空電のようにランダムに飛び回るグリッチノイズを効果的に用い、アンビエントな世界観を壊さないように気を使っている。フレーズがミニマルに繰り返され、全体がゆっくり回転しながら遷移していくような気持ちよさがある。
結果的にハードなビートがありつつもゆったりとした、やや曖昧模糊(音の使い方とメロディの隠れ方)な音像になっており、なるほどこれは確かにエレクトロニカに通じるものがある。電子音楽を基調としながら生音などにも範囲を広げてポップか、もしくはなんかアートっぽいことをやっているのが私の勝手なエレクトロニカのイメージなのだが、このTelefon Tel Avivの音源は(あとから聞いているからというのも非常に大きいと思うが)、エレクトロニカっぽくありつつも、アートらしさより生々しさが打ち勝ち、明快なポップ性もあまりない。要するにおしゃれになりきれない、なんならちょっとナードっぽいエレクトロニカになっておりそこが面白い。

アクシデントもあり結果名盤になったという面白いアルバムでこれはこれでもちろん非常に格好いいのだが、そうなると他のアルバムが気になってくるわけで。仕事中にこっそり見たDommuneでもこのアルバムとはかなり毛色の違う音を出していたようだし、他の音源も聴いてみようと思う次第。久しぶりにエレクトロニカという感じの音を聞いたのも面白かった。10年から15年くらい前にエレクトロニカ聞いていたなと言う人は今このアルバムを買ってみると面白いかもしれない。

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