個人的に名作だと誉れ高いが読むのに難解でハードルが高いなという本がSFだと「ソラリス」と「デューン」、そして「ハイペリオン」だった。興味はあるのでそろそろ読もうということでこの間、スタニスワフ・レムの「ソラリス」を読んだらやっぱりとてもおもしろかった。(難解ではなかった。)じゃあ次は「ハイペリオン」!となったわけ。私の大好きな椎名誠さんもたしか「すごい!」といっていたので。読んでみるとやはり大変面白く、そしてやっぱり難解ではなかった。むしろ明快なくらい。
28世紀の人類は地球が不幸な事故で消失したこともあり、銀河に大きく乗り出していた。連邦(ヘゲモニー)が統合的に人類を管理統括し、巨大なAI群テクノコアと連帯して居住可能な惑星に人類を送り出し、瞬間転移システムで遠く離れた惑星を結んでいた。転移システムでの移動・連絡網はウェブと呼ばれる。そんなヘゲモニーの管理する広大な宇宙にもたったひとつ管理外にあるものがあった。惑星ハイペリオンにある時間の墓標である。全く人類には道の材質でできた建造物で、ここでは通常とは異なる時間(過去に向かって進んでいるのではと人類は憶測する)が流れており、おまけに墓標の周囲にはシュライクと呼ばれる化物が出現する。シュライクは巨大輝く体躯に真っ赤な相貌を持ち、全身ナイフが生えたような異様で瞬間移動を繰り返し、近づく生物を気まぐれに殺して回っていた。ある時この未開の(ウェブに取り込まれていない)ハイペリオンにヘゲモニーにくみさない人類の勢力、宇宙の蛮族と呼ばれるアウスターの船団が向かっていることが明らかになった。ヘゲモニーはシュライクの元に最後の巡礼7人を派遣することにする。シュライクは気まぐれに人の願いを叶える、という噂があるのだ。選ばれた7人の男女は長い道すがら各々のハイペリオンにまつわる昔話を語ることにする。
このハイペリオンという物語は面白い構造をしていて、人類が謎の存在、時間の墓標とその周囲に出没するシュライクの本質に迫るという大きな流れが一本貫いているが、同時に7人の主人公たちのうち6人の物語が入れ子になって含まれている。じつは「ハイペリオン」は4部作の冒頭の1冊(文庫だと上下分冊だけど)で、実際巡礼たちの話だけでこの「ハイペリオン」は終わってしまう。(念のため言うが謎は残されるが、この一冊だけでも十分面白いと断っておく。)この6つの物語というのが、もちろん同じ世界観を共有しているという前提はありつつ、オカルトあり、ハードボイルドあり、スペースオペラあり、泣けるSFならではの人情噺ありと実に多彩な魅力に飛んでいる。一個の長編でありながら、連作短編小説のような趣があるわけだ。それでも全く接点のなかった男女の話を聞いてみると、ハイペリオンという星がヘゲモニー、そして人類が掌握する宇宙の中でいかに特別で異質な存在なのかがわかってくる。そしてその謎もほんのすこしずつ詳らかになるという仕組み。これはワクワクする構造であるよね。いわば末端にそれていくような別個の物語が実は巨大な物語の一部で、読み進めることで本筋に修練していく。
さて宇宙に人類が進出したら、というのは巨大な思考実験だ。様々なことが起こり得る。敵対異星人との白熱するバトルだけがSFでは断じてない。光を超える移動方法で時間の概念、公平性がうしなわれるだけでこの作品だけでなく、数々のドラマが生まれてきた。それから巨大な宇宙を果たして統治できるのか?という問題もこの「ハイペリオン」ではやはり取り扱われている。昨今やはり国のなかの一勢力の独立という事柄が世を賑わせているが、やはりこの独立権というのが未来でも重要になってくる。自由というのは一体不思議な概念で、呪いのように人間はこれを追い求めていく。ハイペリオンはそういった意味では深く人類の内部に切り込んでいく作品で、おそらくもしかしたらほんとうの意味で(つまり人類が作ったのではない)神かもしれないシュライクという存在が、この後に続く作品でその存在感を増していくのだろう。一体人間の自由意志と言うは何か?というのがあんにこの4部作の冒頭を飾る「ハイペリオン」では提示されているように思える。
もちろんこの次に続く「ハイペリオンの没落」も読む気でいるが驚いたことにこちらはもう絶版になっているのだな。「ハイペリオン」は重版しているのにちょっと勘弁してほしい。とても続きが気になるようにできているのだから。
面白いSFを読みたい人は是非どうぞ。
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