アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨークのノイズロックバンドの8thアルバム。
2017年にSouthern Lord Recordsからリリースされた。
メンバーチェンジや活動休止などもありつつ1988年から一貫してノイズロックを鳴らし続けるバンドUNSANE。中心となるのは唯一のオリジナルメンバーでボーカルとギターを務めるChris Spencer。前作「Wreck」から5年ぶりの新作。オリジナルアルバムのカバーアートは常に血まみれで、今作でもそれは健在。
UNSANEを聴いてて思うのは彼らが演奏するノイズ・ロックというのは文字通り「うるさいロック」であって、ここでいうノイズと言うのはハーシュノイズに代表されるノイズミュージックとは一線を画す。ジャンルとしてのノイズと言うのは常にメイン、オーバーグラウンドに対するアンダーグラウンド、カウンターであって、それをロックやハードコアや、メタルなどに要素の一つとして取り込むやり方も今では珍しくない。今年リリースされた作品だけ見てもFull of Hell、本邦のENDONなどはノイズの影響を受けたうるさい(ロック)バンドだが、本質的なノイズ・ロックとは異なる。UNSANEの場合はそういった意味でのノイズは一切用いない。核となるのは骨太なロックで、芯が太く、ぶれない。ガッツリ硬質な音はオルタナティブ・ロック、メタルにとても良く似ている。例えばHelmetなんかには結構共通したものがあると思がもっとプリミティブだ。ノイズというのはブレみたいなものだから、かっちりしたそういったロックにノイズと言う形容詞をつけるのは面白いが、つまりは極端にうるさいのがUNSANE。
ガシャガシャした質感が残りつつも重量感のあるギター。それと対をなすカッチカチにハードに固めたベース。突っ走り勝ちになる危うさを溜めのある連撃で引き締めるドラム。そして飾りっ気がないが、真に迫ったシャウト主体のボーカル。曲速はミドルでだいたい3分程度。余計なものは一切なく、淡々とロックを演奏していく。ロックから派生したハードコア、メタルは先代の衣鉢を注ぎながら、着々と武器も増やして武装してきているが、UNSANEに関しては流石に音に関しては重たくそしてクリアだが、その他は基本的に装飾が殆ど無い。最小限のメンバーでいわば徒手空拳で勝負を挑んでくる。特にこの音源を聞いて思うのは、ある種のルーズさ。UNSANEより力強く、凶暴そうな音楽はほかにもあるが、UNSANEを聴いているとなんとも言えない居心地の悪さを感じるものだ。まずは不穏さが一つ。油をよくさした工業機械に囲まれているような、居心地の悪さ。そしてもう一つはシニカルなユーモアである。張り詰めているところは異常に張り詰めているのだが、どうも薄ら笑いのような酷薄さ、皮肉さ、空虚さがその背後にあってそれが熱量のある曲を同時に薄ら寒いものにしている。ここらへんはもうすぐ30年を戦い続けるベテランゆえの力配分の妙なのだろうか。
個人的には5曲目「Lung」から7曲目「Distance」までの中盤がたまらない。特に「Distance」はコーラスのところも良いが曲の最後になかなかつかみにくい感情がむき出しになっているようで震える。
ある意味ではノイズ+ロックの本命というか。オルタナティブ世代がかつての栄光の本質が死ぬどころか強靭に生き残り続けることに感涙の涙を流してもよし。最新鋭のサブカルとしてのノイズ世代が、ぶっというるささにぶん殴られて恍惚とした血の味を口の中に感じるのもよし。無慈悲な音に目がない人はぜひどうぞ。
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